体を震わせて声を上げることの正当性(ヤジ排除国賠 第四回期日報告)
2020年8月21日にヤジ排除問題をめぐる国賠訴訟の第4回期日が札幌地裁で開かれました。
先に書いておきますが、次回の裁判期日は10月28日の11:00からです。傍聴を希望される方は、30分前までに札幌地裁へお越しください
今回の裁判では、裁判の「原告2」こと桃井(これまで藤根という名前で表記してきた人物)の側から、道警側書面への反論を提出しました。また、広瀬孝裁判長から、これまでの書面における相互の主張についての争点整理が行われました。
道警側の主張への反論
今回、原告(ヤジポイ)側は道警側の書面に反論する形で新しい文書を提出しました。そこでのポイントを、弁護団の今橋直弁護士が意見陳述として解説をしましたが、これがなかなか良かったのです。
意見陳述の全文は先日公開しましたが、そこで述べられているのは、「警察側の主張が、いかに言論の自由をないがしろにしているか」ということです。
これは、道警側が前回期日で提出した書面および現場警察官の報告書に対する批判となっています。道警側の書面では、安倍に向かってヤジを飛ばした際の桃井の様子について、「大声で」「声を震わせて」「顔を真っ赤にして」「警察官の警告も無視して」ヤジを飛ばしていた、といった表現がとにかく何度も出てくる。
ここでの道警側の意図を意訳すれば、「ヤジを飛ばした女はヤバいやつだったから排除した。これは警察官としての正当な職務行為である」ということです。そういう差別的な表現すら出てこないものの、ほとんど「ヒステリー」とでも言いたげです。もしも「女性が警察に強く反論する」という行為そのものをもって「普通ではない」「興奮状態」と判断しているのだとしたら、ジェンダー規範から逸脱していることが、そのまま「まともではない=危険人物」扱いされるという意味で、古典的な性差別です。
このような内容に対しては、単純に事実とは異なる(「興奮状態」ではなかった)という風に反論していますが、今橋弁護士の意見陳述では、「もし仮にそのような様子であったとしてもなにも異常なことではない」と反論しています。ここが重要な点です。
警察官の報告では、「大声で叫んだ」という点も強調されています。道路上で大声を出すなんて異常だ、と印象付けたいのでしょうか。しかし、原告2は、マイクを使って大音量で話している安倍首相に対する批判の声を上げようとしているのです。小さな声で発言しても何の意味もなく、大きな声を出すことの方が自然なのです。警察官の言うように「全身を震わせて喉が枯れるほどの大声」だったとしても、何ら不自然なことでもないし、ましてや非難されるべきことでもありません。
むしろこのような原告2の様子は、真剣に、一生懸命に、自らの信念に従って意思、意見を表明している真摯な態度として、高く評価されてしかるべきです。
為政者に対して主張を伝える時の様子が、仮に「興奮状態で」「声を震わせて」「大声で」あったとしても、だからといっておかしなことではないのです。
そもそも民主主義国家においては、為政者に対して自分の意見(ネガティブなもの含めて)伝える権利が最大限に保障されている。道警側の主張は、あまりに民主主義についての理解が足りないということです。
(道警側書面ではヤジのことを「罵声」とも表現する箇所もあり、このことなどからも、「そもそも反対意見を伝えること自体が異常だ」という考えも透けてみます)
争点整理
また、これまでの書面のやり取りをする中で上がった争点について、裁判長が整理する場面がありました。これは、道警側の希望もあって行われたものです。
これまで裁判で交わしてきたやり取りの中で、どのような出来事があったのかを確認する「事実認定」について、大枠のところで争いはない。原告が大声でヤジを飛ばしたことや、その後警察が原告の体をつかんで移動させたこと、取り囲んで行動を制限したこと、現場を離れる原告を追尾したことなどに関しては、どちらも認めているからです。
ただし、その詳細については争いがあり、それによって解釈の違いが生じている。警察側は「犯罪行為が起こる差し迫った危険があった」として警察官職務執行法などの適用の正当性を主張するのに対して、原告側は「危険性は特に生じていなかったため、警察による実力行使は違法で不当だ」と訴えている。ここに見解の相違がある。そして、この解釈の相違を生み出す前提として、細かい事実の違いをはっきりさせる必要があるのです。
逆に言えば、この「警察官職務執行法が適用される要件を満たす事実がそこにあったのか」ということが今回の裁判の争点となっている、というのが裁判長による整理。これらが争点であるという見解について、原告・被告両者から異論は出ませんでした。
そして、これらの事実をより正確に確認するために「なんらかの人証(証人尋問)を行う必要があるのだろうと考えています」という発言が、裁判長からありました。
これはつまり、現場で実際に排除に当たった警察官を呼び出し、証人尋問を行うということです。
これまで、道警側は本部長の山岸直人や警備部長(当時)の原口淳など、責任者にあたる人物が、議会などで答弁してきましたが、現場の警察官で排除に当たった警察官はあの日以来、公には全く発言していません。警察官内部での聴き取りとしてまとめられた報告書はありますが、もちろん顔などは出ていません。
あの日、全く意味不明な、理屈にもなっていない理屈をベラベラと喋りながら不当な排除を行った警察官たちが、裁判所に出廷するというのは、考えただけでワクワクする話です。
一体どんな気持ちで「ジュース買ってあげるから大声あげないで」などとふざけたことを口にしたのか。ぜひ裁判所の法廷で問い詰めたいところです。乞うご期待です。
本部長が交代
また、この日新たに判明した(というかこの日にヤジポイ側で初めて把握した)事実として、これまでずっとヤジ排除問題について対応してきた(ろくな対応をしてこなかった)山岸直人本部長(道警トップ)の退任が決まりました。8/24付人事とのこと。
「そうか、ようやく更迭されたのか」というのは早合点です。山岸はもともと警察庁のキャリア官僚で、道警には出向していただけ。道警は辞職するものの、次は警察庁に戻り、「警察庁長官官房付」という役職に就くそうです。年齢的にはまもなく定年で退職するとは思いますが、東京に戻ることが決まったので、栄転といえるでしょう。
政府のためにしっぽをブンブン振り回した功績が認められて栄転ということであれば、まさに「アベ人事」といった趣です(そういえばアベも辞めましたね)
退任を伝えるニュースがいくつか出ていましたが、こんなに晴れ晴れした表情の山岸本部長は見たことがありません。「もう面倒なことに関わらないで済むんだから最高だぜ!」という心の声が、それはもう派手にほとばしっています。
ちなみに、次の道警本部長は小島裕史(ひろし)という人物が就きましたが、この人も警察庁のキャリア官僚出身です(というか、各都道府県警察のトップは基本的に警察庁のキャリア官僚が出向することになっています)。
にしても、この小島という人物、経歴を見る限りでは、警備・公安畑を担当していた歴が長いようで、直近でも警視庁の警備部長をしていたようです。要するに、全国でも特に厳しい東京の機動隊を束ねていたわけです。こわっ! なんというか、権力側も全力で攻めてきているような印象もあり。
とはいえ、どんな人物がトップの座に就こうが、こちらのやることは変わりません。ヤジポイとしては、今後もひるまず、この問題に取り組みたいと思います。
この事件の地裁判決は今年度中に出るのではないか、というのが現在の原告側の予想です。おそらく、高裁・最高裁まで話は続くと思いますので、どうぞゆるやかにご関心を持続してもらえればと思います!
「北方ジャーナル」常連の小笠原淳さんのこちらの記事も合わせてどうぞ。
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