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愚者の聖槍/憂国の桜はかく散りなん

都市の喧騒から遠く離れた山中、高級住宅地の広大な敷地に造成された庭園に、一機のヘリが降下してくる。15メートルの高さから飛び降りる2つの影を残してヘリは速やかにその場を去ってゆく。

「カンナギさん、どう考えてもヤバいですよね今回の事件」
「その曖昧で粗雑な言い回しはやめなさいと前から言っているだぞセナくん。」
男女2人組が屋敷に詰めかけた警察官たちの間を縫うように進んでゆく

「指揮官のナガシマだ。現時刻より現場の指揮権は君たち移った。10分間だけ、というのが条件だ。さっさと済ませていただきたい。あんたらに一体何ができるのかは知らんがな。」
「ご協力感謝いたします。」
カンナギは愛想笑いを返す。その横、退去を命じられた現場の捜査官たちは一切目を合わせることなくすれ違ってゆく。

「さて、現場だ。派手にやってくれたものだ。これでカミナ・シティの夜景がよく見える」
「ここ、武術道場ですよね?」
かつて道場であったその場所は、壁と天井の半分が吹き飛ばされていた。その中心、腹部に槍を突き立てられてまま絶命しているのが今回の被害者だ。

「オウカ・クニヒロ。桜花流槍術の開祖にして、2つの大戦で数多の異能者集団からこの国を守ってきた護国の英雄、か。」
「一体どうやったらこんな殺しができるんですかね。武装を解いてないってことは体のどこに刻まれているかも定かではない刻印を一撃で貫いたってことじゃないですか。」
「それを調べるためにわざわざお前を連れてきたんだぞセナくん。」
「すいません。それじゃあ始めますね。」

そう言った瞬間にセナ・トウジの目の色が変わった。その眼光は物理的にうっすらと黄色い光を帯びている。床に手を触れると同時に周囲の全てが光の粒へと変換されてゆく。ゆらゆらと立ち上り、揺らいだかと思うと再び確かな像を結ぶ。

「まずは犯行時刻から。」

そして時間は巻き戻る。

道場に向かい合う、2人の槍手の姿が浮かび上がった。

【続く】

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