【54】お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~
54 手に入れた念願のご褒美
人々は何が起こったのかわからないという顔で、不思議そうに私とザルツブル子爵を交互にながめる。
私は立ち上がれず呻いている子爵に、軽く頭を下げてから、国王に向かって剣士の礼をとった。
「しょ、勝者、ジェシカ嬢……!」
審判の騎士の声に、国王が問いかけた。
「勝者はジェシカ嬢なのだな。私の席から何が起こったのかよく見えなかった。説明してくれ」
「はっ、国王様。ザルツブル子爵が木刀を振り下ろそうとした直前に、ジェシカ嬢がザルツブル子爵の手首を打ち、そのまま脛辺りにも剣先を当てました。一太刀で、瞬時に2か所を攻撃したのです。子爵は木刀を手放しました。そして、足を打たれた痛みにより、今も立てずにいらっしゃるかと……」
「なんと、一太刀で2か所を……。ジェシカ嬢は思っていた以上に腕が立つのだな……」
一撃で2か所を攻撃する事の意味がわかる国王や騎士達が、目を見開いて私を見た。
ライガの顔は一見無表情だが、わずかにほころんでいるのが私には見て取れた。
(よし、なかなか印象的な初試合ができたわね。でも、ほとんどの人達は、まだ納得してないでしょうけど……)
茫然として座りこんだままのザルツブル子爵をしり目に、周りの人々より次々と声があがる。
「リャンヒー男爵です。恐れながら、ザルツブル子爵は現役を離れて長い。ぜひ、私がお相手したい」
「イルノ侯爵だ。うちの騎士団長と手合わせ願いたい」
「ぜひ、我が息子と……」
私は1時間足らずのうちに7名の者と試合をし、全勝した。
練習試合の後は、ダンスパーティーだ。大広間の両サイドにはオードブル、スウィーツやフルーツとドリンクが所狭しと豪勢にならんだ。
華やかな演奏と大勢の人々の弾んだ足音、そして笑いさざめく声が響く。
練習試合の全てで圧倒的勝利をおさめた私のもとには、たくさんの方々が挨拶にきた。
『これほどお強いとは驚きです。これからが楽しみですな』
『そういえば、神鳥の神託を授かり、修行に励んでらしたのですね。素晴らしいことですわ』
『女性が公爵代理という、新たな時代の幕開けに貢献されるとは。公爵様の自由で革新的な教育の賜物ですね』
掌をかえしたように、見え見えにへつらってくる人達の相手を両親に押し付け、ライガに目配せしてから、私は外の空気を吸いにバルコニーへと出た。
(ああーー、疲れた……。こういう場は、やっぱり人に酔うっていうか、気疲れするわ。でも、計画通り、大勢の人の前で、公爵代理の許可を国王から正式に得ることができたし、大成功よね。ちょっと目立った事しちゃったから、余計な波を被る可能性はあるけれど。まあ、それも仕方ないわよね。困難を避けてちゃ、自分の信じる道を進むことはできないもの)
「良くも悪くも、一躍時の人となるな、ジェシカ嬢。だが、とにかく、あなたは公爵代理の権利を手に入れた。ここは祝いの言葉を述べるべきなのであろうな」
「フランツ様……」
「堅苦しい挨拶は無用だ」
バルコニーやってきたフランツ王子は、近くの椅子に腰かけた。
私は王子の元へと体を向け、礼をとった。
「これも、フランツ様のお助けがあったからでこそです。アーシヤと私達を1晩、フランツ様の城で過ごさせて頂いたこと、心より感謝申し上げます」
「私はたいしたことはしていない。ただ、友人達に場所を提供しただけだ」
「……私達は、この御恩は決して忘れません」
頭を上げると、フランツと目が合った。
私を見つめる彼の瞳には、以前のような熱は感じられない。彼は寂しそうに微笑んだ。
「……どうかなさいましたか、フランツ様?」
「ジェシカ嬢、あなたと初めて会ってから、5年が経つ。この5年間、私はあなたを妻にすることを疑わず生きてきた。王族の一員として国立図書館と騎士団での仕事を両立させながら、あなたに不自由させない暮らしをさせる為に、私なりに努力してきたつもりだ。あなたに求婚を断られた時でさえ、諦めるつもりはなかった。だが……、ライガの計らいで剣士であるあなたの姿を見て、気づいたのだ……」
(え? ライガの計らいで、って。どういう事? 剣士である私の姿……?)
「あ……の、フランツ様。ライガが何かいたしましたか?」
「そうか、彼はあなたには報告していないのだな。……彼に手助けしてもらい、一度、あなたをこっそり見に行ったのだ。平民の少年の姿をしたあなたに、まず驚いた」
「……全く存じませんでした。お恥ずかしい姿をお見せして申し訳ございません」
「あなたが謝る必要はない。剣の修行をしていると聞いていた筈なのだが、実際に令嬢の恰好をしていないあなたを見ると、恥ずかしいことに予想外の驚きを感じた」
視線を外し、遠くへと目をやるフランツに、なんだか申し訳なく思う。
そりゃ、まあ、驚くわよね。この世界で、この国で、貴族の令嬢が剣をふるうのも、ドレスでない所謂パンツスタイルの恰好をするのも、ましてや小汚い恰好で一人でフラフラと外をうろつくのも、あり得ない事だ。
なんとなくフワッとした想像を元にした上での理解と、現実の姿を見るのでは、全く意味合いが違ってくる。王子であるフランツが、私のあの少年姿を見て、驚かない方が無理な話だろう。
「そして、あなたは平民の子供たちをかばって、絡んできた男の蹴りを受けた」
「あら。あの場をご覧になられたのですか……」
「そうだ。最初に言い合いになった時に、私は止めに入ろうとして、ライガに止められたのだ」
そう言うと、フランツは再び、まっすぐに私を見た。
~続く~
お読みいただき、おおきにです(^人^)
イラストはAIで生成したものを使っています。
サポートいただけますと、大変励みになります。どうぞ宜しくお願い申し上げます! 作品執筆の活動費に使わせていただきます🎵