恋愛履歴書③
僕の人生は、恋で作られている
恋の経歴を伝えることは、僕の経歴を伝えること。
そう、これは恋愛履歴書なんだろう。
(①はコチラ)
https://note.com/yahho3/n/n08e1b9c99941
(②はコチラ)
https://note.com/yahho3/n/ne25756465845
'98 N's memory
何の派手さも無い文化部に、突然舞い降りた天使。
いや、トラブルメーカー。
アメリカから来た彼女はまるでハリケーンみたいに、僕の日常を破壊した。
僕らの部活は地元の高校同士で交流会がある。
男子校の僕にとって、この会はとても新鮮だ。
なんせ沢山の女子とお互いに値踏みし合わずに普通に話すことが出来る。
共学校ならこんな日常なんだと思うと、ちょっと羨ましかった。
男子校にいると、妙な価値観が染みついてしまう。
出会う異性みんなと付き合いたくなるって価値観。
当時の僕は相当ストライクゾーンが広かったと思う。
とは言え、誰かれ構わず声をかけていい訳じゃない。
time place occasion TPOが大切だ。
そんな時に1人の女の子が参加してきた。
背が小さくて、ショートカットの髪に胸だってぺったんこ。
ランニングシャツなんて着てるから、まるで少年みたいだ。
でも声と笑顔がすごく印象的。
それがNちゃんの第一印象だった。
でも彼女の本当の姿はこんなものじゃなかった。
僕たちの会は、なんていうか部活の技術論とか、高校生ぽく世の中のことについて討論したりとか、そういう割と地味な活動をしていた。
そこへ現れた最年少の彼女は、開口一番
「この会って地味ですよね。もっと活動を見直して、情報発信を増やしませんか?」
!!!
誰もがあんぐり口を開けた。
先輩から受け継いで以来、みんな無難に運営することしか頭になかったその会で、やり方を改めようなんて提案は初めてだったからだ。
それがついこの間参加したばっかりの小柄な子に言われたもんだから、みんなよく状況が飲み込めなかった。
でもこっちも上級生の意地がある。
「そうだね。せっかくやるなら新しいことにも取り組んでみよう。具体的にはどんな活動が考えられるのかなあ。」
一応副実行委員長という肩書きを持っていた僕は、内心ドギマギしながら聞いてみた。
彼女の提案はシンプルでかつ合理的だった。
ものすごく頭の回転が早くて、さらにハッキリ喋る姿が格好良かった。
言ってる内容は、会の存続に関わりそうなほどめちゃくちゃで危ないものだったけど、僕は後先考えずに彼女の提案に賛成したい気持ちでいた。
そのあとも打ち合わせと称して、何度か彼女と会う口実を作った。
もちろん、他のメンバーもいたけど、僕は彼女と話せるだけで満足だった。
彼女の考え方はとても日本人離れしていて、僕はそれにすごく惹かれた。
あと、彼女はボディタッチがすごく積極的だった。
平気でギュッとハグしてくる。
その頃は暗黒面に傾倒していた僕のフォースは、またもや暴走気味だった。
脳内で何度も彼女と乱暴なセックスをし、そしてそのことはさらに彼女を強く意識することに繋がった。
打ち合わせをしていても、まるで中身が頭に入ってこない。
それくらい、僕は彼女に夢中だった。
打ち合わせのあと、いつも僕は彼女を家まで送っていった。
僕とNちゃんの家は真反対と言っていいほど離れていて、送ってから家に帰るまで、ゆうに3時間はかかった。
それでも2人で過ごせる時間はものすごく特別で、そのためなら帰りに何時間かかろうが、そんなことは気にもならなかった。
それよりもむしろ「1人の(まだキスもしてない)女の子に、ここまでやれる男はいるか?」って1人でニヤニヤしていた。
夏も終わった頃、僕は彼女をデートに誘った。
ちょうど彼女の誕生日近くで、僕はプレゼントを準備していた。
今まで好きになった子にもボールペンとか、コップとか、可愛らしい小物をあげたことはあったけど、僕はNちゃんに何かアクセサリーをプレゼントしたかった。
もちろん今までにアクセサリー売り場なんて行ったこともない。
売り場のそばを何十分もウロウロしている僕は、どう見ても不審者だったに違いない。
さんざんウロウロ、あれでもないこれでもないと悩んだあと、bloomでシンプルな指輪を見つけた。
赤いガーネットのシルバーリング。
僕が生まれて初めて女性に贈ったアクセサリーだ。
また練りにねったデートプランで、1日を過ごした。
彼女は相変わらずよく笑い、その顔を見てるだけでとても幸せになれた。
海辺のベンチを見つけて、一緒に座った。
僕がプレゼントを取り出すと、彼女は一瞬目を伏せたあと、子供みたいに大騒ぎして喜んでくれた。
そのあと、お互い手を繋いだり肩に手を回したりしながら、いつものように話をした。
だんだん日が暮れてきた。
海辺だから少し風が強い。
「...ちょっと寒いね。」
Nちゃんが頭を寄りかからせながらポツリと呟いた。
僕は彼女の肩を、やせっぽちで華奢な体をギュッと抱きしめながらキスをした。
長いキスだったと思う。
10秒くらいに思ったけど、もしかしたらもっとすぐだったのかもしれない。
とにかく時間が止まった。
すごく胸がドキドキしていた。
「これでもう、寒くないでしょ...?」
彼女は少し笑って、何も答えずにしばらく僕らはそのままくっついていた。
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次の打ち合わせの時、突然彼女が高らかに宣言した。
「今の実行委員会の解散を動議します」
僕はあごが外れるかと思うほど、口が開いてしまった。
いったいなんでそんな話になるんだ。
彼女が言うには、新たな改革案を実行する上で、現実行委員会は決断力に欠けており、これ以上運営を任せることが出来ない。
ひいては年度更新を待たずに世代交代をせよ。
という主張だった。
ちょうど僕らの学年は高2の終わりで、いよいよ受験が意識される時期でもあったから、謗られてまで続けようという声も少なく、あっという間に僕らは引退することになってしまった。
もちろん彼女に話を聞こうとしたけれど、全く取り付く島もない。
結局僕は訳が分からないまま、彼女との関係も終わってしまった。
何年かした後、彼女の先輩の家に遊びに行く事があった。
「Nちゃん声かけたけど、来れないって話しやったわ〜」
「あ、そうなんですね(うわー会ったら気まずいなー😅)」
「なんかあの子、会合でも暴れてたらしいなあ。ゆるい男にちょっとカマかけたらホイホイその気になってきたって話してたわ!w」
(それ完全に俺のことやな...)
思えばあの一瞬の間は、自分の思うように行動する僕に対する、哀れみだったのかもしれない。
人間の心の深淵に触れた関係だった。
(つづく)
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