恋愛履歴書②
僕の人生は、恋で作られている
恋の経歴を伝えることは、僕の経歴を伝えること。
そう、これは恋愛履歴書なんだろう。
(①はコチラ)
https://note.com/yahho3/n/n08e1b9c99941
'96 K's memory
中学生になった。
部活は文化部だったけど、学校祭前なんかは楽しく活動出来たし、友達もたくさん出来た。
なんせ男子校だから、妙な一体感がある。
ただ、女子はいないから自然には彼女は出来ない。
妄想は膨らむけれど、現実と上手く結びつかない。
そんな年代だった。
小学校からフォースの鍛錬に余念が無かった僕は、もう師匠なしでも自在にフォースを操れるようになっていた。
同じ学年にもジェダイクラスの使い手はそれなりにいたように思う。
1番は、宿泊合宿で互いのライトセイバーをかち合わせて戦っていた奴らだ。
あいつらこそ本当のジェダイマスターだ。
また夏の暑い日だった。
どうも夏はみんな気が緩むのか、気楽な出会いが多くなる気がする。
夏休みに僕は一人で友達の部活が終わるのを待っていた。
あまりに暇だったので、部活棟と裏のフェンスの間に挟まってみた。
自慢じゃないが僕は狭いところが落ち着くし好きだ。
ここならグラウンド側からも見えないし、存分にダラダラできる。
フェンスとの隙間は、正直ゴミだらけで素敵な場所とは言い難かった。
「なにしてんの?」
.......!!!
誰だっ!どこだ!?なぜ俺がここに居ることを知っている!!まさか脳内をハッキングされてるのか!?
と、軽くパニクったけれど、なんの事は無い、フェンスの向こうは隣の女子校なのだ。
.......
覗いてたわけじゃないよ?
覗いてたんなら話しかけられる前に気がつくからね?
話しかけて来たのは隣の女子校の生徒で、どうやら学年は同じかひとつ上のようだ。(僕らの学校は姉妹校で、学年2年ごとにネクタイの色が変わるのだ)
「なにって、、、暇つぶし?」
「あはは、変なのーw」
友達と一緒に屈託なく笑う。
それがKちゃんだった。
それから少し話をして、彼女がテニス部なこと、練習が終わって友達とブラブラしていたこと、そして1つ年上だということが分かった。
ちょうど夏休みが終わると学校祭がある。
実は両校では学校祭の前後は出会いのチャンスだ。
お互いの学校に出かけたり、そこで仲良くなったり、カップルになる生徒は少なくない。
僕も部活の展示があることを伝えて、遊びに来てくれるように誘った。
学校祭当日、Kちゃんと友達が来た。
僕はもう大張り切りで、色々と説明し、学校を案内した。
その間に彼女の好きな物とか、最近聞いてる音楽の話とか、色んな話をした。
フリッパーズ・ギター?小沢健二?
タワーレコードってとこがあって、そこではテレビでは流れないような曲がたくさん取り上げられているとか。
Kちゃんは年が上なだけあってすごく知識もあるし、どんどん話しかけてくれる。
その頃、僕らの友達グループは駅前の喫茶店にたむろしていた。
そこに彼女を連れても行った。
彼女もレトロな喫茶店に入る経験はほとんど無いみたいで、すごく驚いてたっけ。
仲間とカラオケにも行った。
Kちゃんと友達も一緒に来た。
一緒に過ごすことが増えるごとに親密さが増していることを実感していた。
この頃僕は、「付き合う」ということがよく分からなかった。(今もそうだけど)
付き合うのは、初めましてからずっとしてることなんじゃないか?
恋人として接することは、お互いに恋人になりましょう、と約束してからするものなのか?
そこがよく分からなかった。
そんなことをキザっぽく喋る僕の話を、Kちゃんはいつも笑いながら聞いてくれていた。
少し寒くなってきた頃、僕は彼女を遊園地に誘った。
初めて、友達グループではなく、二人っきりで出かける。
僕には野望があった。
「.....キスするのさ(フッ)」
もうキスぐらいで暴虐の帝王は蘇りはしない。
キスなんて普通のことだ。
それより大人なKちゃんならもっとその先のことでもさせてくれるかもしれない。
妄想は止まらなかった。
毎晩僕はそのことを考えながらフォースの鍛錬に励み、来たるべき日を待った。
その日は来た。
もう何回も来たことがある、地元の遊園地。
僕は念入りに決めたデートプランで1日を過ごしていった。
途中で手も繋いだ。
それからはずっと手を握りっぱなしだ。
最後に観覧車に乗って、そこで「キスをするんだ、、、」
冬枯れた景色の中をゆっくりとゴンドラが空に昇っていく。
閉園近くなった遊園地は、人影もまばらだ。
沈黙が痛い。
どうしたらいいんだろう。
その時突然脳裏に浮かんだのは、槇原敬之の“てっぺんまでもうすぐ”だ。
僕は少し震える声で、歌い始めた。
ゴンドラはゆっくりと回っていく。
歌い終わったら、キスをしよう。
歌い終わったら、、
歌い終わったら、、
歌い終わったら、ゴンドラは地上に帰ってきていた。
「キスが!!!!できなかった!!!!!!!」
僕は頭が真っ白になってしまった。
今日1日一体何をやってきたんだ。
いや、これまでの鍛錬はなんだったんだ。
動け!動け!動いてよ!!
今動かなきゃなんにもなんないだろーっ!!!
そのまま微妙な空気が流れるまま、その日のデートは終わった。
家に帰っても僕はその現実が受け入れられず、いつしか心は暗黒面に支配されるようになってしまった。
僕のフォースは暴走していた。
翌日から、僕はKちゃんを避けるようになった。
いつも学校終わりに迎えに来てくれるのに、わざと部活で遅くなったフリをしたり、塀を乗り越えて会わずに帰ったりもした。
さすがに何かおかしい事に気がついたKちゃんの友達が、彼女の言葉を伝えに来たりもした。
でも、自分の不甲斐なさを認められなかった僕は、いつまでも頑なに彼女を拒み続けた。
毎日彼女の事を考えていた。
フォースが暴走して、ジェダイの書がガビガビになってしまうほど、心に衝動が募る日も少なくなかった。
3ヶ月ほどしたある日。
ふらりと立ち寄った本屋でばったりとKちゃんに会ってしまった。
相変わらず金魚のように口をパクパクさせながら、訳のわからない脈絡の無いことを喋った。
彼女は理不尽な僕の仕打ちに傷つき、立ち直りかけた所に現れた金魚男に心底失望したようだった。
「またね」なんていう叶わない言葉を残してKちゃんは行ってしまった。
仕方がない。
仕方がなかったんだ。
僕に勇気がなかったから。
なぜあの時、せめて抱きしめられなかったのか。
なぜ素直にそうしたいと伝えられなかったのか。
なぜ、それ以降に彼女から逃げてしまったのか。
どれだけ問い直したところで、全てはもう終わってしまった。
何度ももう一度電話しようと思ったけれど、ついにダイヤルする勇気が出なかった。
時間はもう戻らない。
自分のした事も、もう取り返しはつかない。
毎日彼女の事を考えていた。
冬が終わり、僕は高校生になった。
(つづく)
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