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技術者とスピード感

終電から逆算して。

23時30分でギリギリ。
そんな現場でのこと。

5分や10分くらいは余裕が欲しい。
なにかあったら帰れなくなる。

帰れなくなったら、
まぁ、色々と面倒なことになる。


23時を過ぎたあたりで
少しずつ「帰る」空気を育てていく。

23時10分。
全体に声をかける。

そろそろ帰りますよー。
反応は薄いがいつものこと。

23時20分。
上の人に声をかける。

帰りますねー。

ところが。

上の人、S主任が振り向いてこちらをギラリ。
あ、これは‥‥。


いや、まだ大丈夫だ!、こっち来て!

見れば、S主任、帰り支度はできている。
モニターをにらんでブツブツ言っている。

まだ大丈夫だから!、これ見て!
さすがにこれは逃げられない。

アプリのログを見せられる。
ここ、おかしいだろ?、などなど。

背後で小さく「おさきにー」の声。
ほんの数分でみんな帰っていった。


23時30分。

もうギリギリです。
明日にしましょう!

あと5分!

二度寝の常習犯みたいなことを言う。

大丈夫だよ!
いつも間に合ってるから!


23時35分。

タクシーは‥‥、ないだろうなぁ。

S主任、この現場は長い。
凄い近道でもあるのかもしれない。

あるいは何か強烈な裏技でも‥‥。

ほのかに何かを期待する。

思えば日付の変わる頃合いである。
朝からずーっと働いている。

判断力もゆるくなるってもので。


23時37分。

退館の手続きをして駅へ向かう。
玄関の階段を降り、歩道へ出る。

そして答えはすぐに出た。

とても、とても、
これ以上にないくらいシンプル。

S主任、歩くの、速っ!


競歩って、こんな感じなのか?

後ろ姿を追いかける。
早歩きにもほどがある。

下半身の筋肉が悲鳴を上げる。
頭の中は、競歩?、競歩?、競歩?

途中から走った。

これ以上離されるとまずい。
たぶんS主任がギリギリのラインだ。

ハァハァ言いながら
汗だくで電車に飛び乗った。


技術者にも体力は必要だ!

そんなことも言われたなー。
思い起こしてみれば。

そりゃー、必要だろうけどさ。

時間の管理とか、リスク対策とか、
そっちのほうがよほど大切だろうに。

まぁ、いい経験にはなったさ。


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やぐるま
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