高校初日の昼食がアレだった件
昼食をどうするか。
高1男子のそれである。
難問であった。
ちょうど1年くらい前のことだ。
中三男子である。
高校受験である。
どこの学校を目指すのか。
本人に尋ねても要領を得ない。
ま、そのうちにね。
すでに耳タコであった。
本心を隠しているのではなく、
どうやら本当に考えていないようだった。
あるいはちょっとした反抗心か。
ともあれ時間は限られている。
私も相方も引っ越し組である。ゆえに高校の様子には明るくない。近所づきあいも疎い。頼みの綱(というのは大袈裟だけれど)の中学校は「ネットで調べてみてくださいね」と。
将来に大きく影響する進路選択である。1クラス3~40人だったか。いかに仕事とはいえ、その両肩には少々重すぎる責任であるだろう。
友達は?
塾で相談してるらしいよ。
じゃあ、どうする?
どうって、塾、行ってないじゃん。
‥‥。
‥‥。
行く?
行かない。
どうすんの?
さぁ。
‥‥。
‥‥。
じゃあ、探すか。
えー。
まぁ、確かに、ね。
検索する。情報はそれなりに手に入る。
そりゃあ先生も丸投げするわけだ。
希望は?
さぁ。
なにかないの?
さぁ。
どうにも要領を得ない。
自分で探す?
まー、そーだねー。
なんてことを、確か3回くらい繰り返した。
夏休みの少し前である。さすがにちょっとまずい。
条件を設定しよう。
ん?、と、なにやら食いついた。
ついに風が吹いたのか。
さすがに少しは焦ってきたのか。
できれば公立。
予算の都合である。
通いやすい。
登下校で疲れるのは避けたい。
それなりの偏差値。
下を見るにはまだ早い。
このあたりの話は膨らませれば大きくなるが今は置いておく。機会があれば(覚えていれば)また今度。それはともかく、本題は次の条件であった。
学食があるのが望ましい。
‥‥学食?
学生食堂の略である。
いわずもがなである。
そして冒頭のそれ。
昼食をどうするか、である。
どうする?
食べる。
‥‥。
‥‥。
アホか!
左手一閃!、は、かわされた。
ツッコミは空振ったが、ともかく。
選択肢は、弁当、学食、コンビニその他で買う、といったところ。学校の近くのメシ屋へ、というわけにはいくまい。時間も費用も厳しかろう。
コンビニその他も同様である。量の問題もある。運動部系ではないにしても育ち盛りの男子高校生である。食べなくても困る。食費をざっくり暗算してみる。なるほど、凄そうだ。
弁当はどうか。作る時間。材料の費用。材料の買い出し。眠気。栄養バランス。飽きさせない工夫。などなど。ああ、それと、愛情?
これを3年間。
続くと思う?
無理でしょ。
正解!
やった!
じゃなくてな。
好きでやっている人もいるのだろうが、なかなかの重労働である。作ったら寝直せる立場ならともかく。これを美談に仕立て上げるのは、少なくとも私には受け入れがたいことだ。
というわけだよ。
なるほど。
優先順位は、高くはないが、低くもない。
できれば学食のある学校がいい。
安くて、量が多くて、美味しいなら最高だ!
なんてことを頭の片隅でギラギラさせながら学校を探す。この時は結論には至らず、この後もあれやこれやと探し続けた。そして、うまいことに、第一志望も第二志望も学食のある学校となった。実際には「学食あり」を条件に入れなかったが、決め手の一つにはなった。
時は過ぎて。
無事に学食のある高校に入学することができた。書き方がおかしい気もするがともかく。値段は500円前後。まぁ、そんなもんだろう。弁当よりは遥かに気楽といえる。
密かな問題は味付けである。当人の好みに合うか。許容範囲か。ストライクゾーンは広いほうだから大丈夫だろう。大丈夫だった。写真も撮ってくる。「これがオススメだね!」って、勧められてもなぁ。
少し前後するが。
入学式。その直後の、教室へ集まっての諸々。その際の連絡で、最初の2週間くらいは、色々あって、昼休みがズレる可能性がある。ズレると学食が使えない。ゆえに、弁当の持参をオススメする、と。
そう来たか。
とはいえ納得の理由である。
実際にその通りになったそうだ。
2週間をメドに弁当か。
どうする?
ん-。
作る?
そうだね。
おっと。びっくり。意外な一言。
話を進める。
具体的に、そしてゴールを共有するのだ。
なに作る?
おにぎりだね!
どんな?
教室には冷蔵庫はない。そりゃそうだ。ゆえにとりあえずの梅干し。数は、大きめを2個か、普通サイズを3個か。そんな感じ。小ぶりな保冷バッグに、保冷材を入れておけばいいか。
そんなプランとなった。これを2週間続けるかは「臨機応変で」となった。結果としては「面倒くさい」とのことで梅干しオンリーとなった。とはいえ早起きして自分で作ったのだから偉い。栄養バランスやらなにやらあるが、ともかく、偉い。
で、そんな初日。
早め早めで起きたら、さすにが早すぎたようだ。持て余しつつも時計はきちんと見ていたようで、もう少し寝てても平気だね、などなど。
初登校である。
いつもなら寝ている時間だが、さすがに起きて、あれやこれや確認して送り出した。本人は淡々としている。そんなものか。
忘れ物は?
忘れてみないと分からないね!
はいはい。いってらっしゃい。
いってきまーす。
心配事を一つクリア。
次のそれは、無事に帰ってくるか、か。
ふぅ、と一息。
布団へ戻った。
で、夕方。
ただいまー。
おかえりー。
どうだった?
あっはっは。
は?
いやー、まいったね!
なに?
それがねー。
ん?
弁当!
ふむ。
‥‥。
‥‥。
なに?
忘れた!
どっひゃー。
てなもんだ。
古いか。
なるほど確かに、イメージしたゴールは弁当の完成までだった。バッグには入れなかった。迂闊であった。というか‥‥、アホか。
昼食はというと「こんなこともあろうかと!」の、密かに忍ばせておいたカロリーメイトで凌いだそうだ。笑いながら洗面所へ消える。手洗いうがい、着替えるのを待ち、様子を聞こうとしたら。
いま、おにぎり食べてるから、またあとで!
まぁ、元気でなにより。