見出し画像

210211【高校2年生の夏の大会】

高校2年生の夏、7月。夏の甲子園を目指す県大会が始まった。自分はベンチ入りできず、日々の練習では、ベンチ入りメンバーをサポートする日々。ベンチに入れない、背番号がもらえない部員にとって、大会期間はあまり楽しいものじゃないかもしれないが、その年の1年前、県大会決勝、あと一勝で甲子園。というところまで進んだ自校チームのモチベーションは高く、「今年こそは。」と意気込んでいた。自分も一応、そこに含む。としてほしい。組み合わせ抽選により、3回戦が一つの山になると想定、対戦校は、順当に行けば甲子園出場経験もある私立の強豪校、その年の夏も優勝候補だった。

自校は2回戦からの出場。対戦相手は、自校より学校規模が小さい田舎高校。勝ち上がりはしたが、攻守ともにちぐはぐな展開で、もっと圧倒できるとアルプス席から思っていた。負けてしまった瞬間に3年生は引退となる夏の大会になると、内容はともあれ「勝ち上がる」ことが第一だが、2回戦の試合を見て、「勝ち上がる」こと以外にトピックのない試合だった。これで大丈夫?という感じも抱いたまま、中一日で3回戦、対戦校はやはり私立の強豪校だった。その日は平日で、高校の授業は参加しなくていい、休める。というちょっとラッキーは環境の中、校舎から40キロ離れ、山を超えた先にある大きな球場が試合の舞台だった。

ここの球場、よく覚えている。小学校、少年野球の時にもプレイしたことがある球場。広いんだ。小学校の頃は、地区大会、予選大会を勝ち進むと、広い球場で試合ができるという感じだった。地区予選は、河川敷で「ここ、球場?」、「一応、公式戦だよね?」みたいなクエスチョンが生じるような球場で試合をよくしていた。それを突破すると、アマチュア、プロの2軍でも使えそうな球場にグレードアップする。その球場も、過去にプロ野球の試合が行なわれたそうで、当時小学生だった自分は興奮した。ただ、球場が広すぎて、少年野球になると、外野を越えたら、もうランニングホームランなんだ。カキーンと捉えられた打球は、弾道が低かったため、レフト前のヒットになったが、レフトが後逸し、そのままランニングホームランになったことを思い出す。記録はエラーも付くけど、レフトが広い広い外野を追っかけているのを、「あぁあ。」と思いながらマウンドから見ていた。相手ベンチからは「ランニング、ランニング!!」と息の合った掛け声が繰り返される。なぁんだ、自分、いい思い出のない球場じゃんと思うが、その後、自分も相手チームのエラーでランニングホームランではないけど、打者走者としてダイヤモンドを一周したことがあった。中学時代も何試合かしたことがある。中学生にとっても、まだまだ「広い。」と感じる球場だった。

そんな球場に、ベンチ入りできなかったけど、戻ってきました。高校生ともなれば、外野が後逸したところで、「ランニング、ランニング!!」なんて幼稚な声が生まれるわけもない。ランニングホームランの前に、金属音を響かせ、柵越えホームランもザラにある。自分、柵越えホームラン、打ったことないけど、高校に入ってからは、よく打たれていました。だからアルプス席にいるんだよなと自分自身と一応確認して、試合開始を待った。大会の試合当日は、ベンチ外の部員は試合開始に備えて、練習することなんてないし、ランニングすらしない。だから、究極なところグローブを球場に持ってこない部員もいた。うん、自分も何試合かそうしていると思う。応援席の陣取りを終え、後輩としょーもない話や、誰々が好き。みたいな高校生らしい話もした。ホントに甲子園を目指しているのだろうかと思ってしまうが、授業も参加せず、苦しい練習もなく、自分が選んだ部活、野球で応援していれば一日が終わるんだから、一高校生としては、のほほんとしていた。

試合前シートノックが始まると、ノックを受ける選手に合わせて掛け声を開始する。プロ野球の試合前の練習と違い、高校生、ノックの際にミスが出たり、ノッカーの監督はキャッチャーフライを上手く打てなかったり、それなりのドキュメントがあるけど、これが田舎の高校野球。しっかりした一礼でシートノックは終わり、いよいよ試合が始まった。

両校ともにベストメンバーと言えるスターティングオーダー。相手校は、中学3年生の時、「セレクションを受けたらどう?」と当時の中学校の野球部の監督に言われたことがあったが、「いやー」と悩むブリッジを入れて断ったことを思い出す。県選抜に選ばれたこともあって、恥ずかしながら同県内において名前が知れ渡り、別の私立強豪校からもスカウト的な話を聞いたが、全て「いやー」と悩んでから断った。そんな高校であるから、自分の全国大会時のチームメイトが複数人相手校にいた。ベンチに入っている戦友、入ってない戦友、それぞれいたようだか、逆サイドのアルプス席から戦友の姿を見るに留まった。さすがに対戦前に、「おっすー」のように挨拶に行くことはちょっとご法度だった。

試合は自校が先攻だった。相手はエースピッチャー、長身で190センチはあるんじゃないかと思った。そこから投げ下ろす感じにストレートとカーブ、スライダーを散らす。大会前、自分が投げる球には気持ちよくスイングする打線も、このあまり軌道を見ないボールに翻弄されていた。それに負けじと、自校のエースピッチャーも初回から飛ばしていた。140キロを越えるストレートで押していく。後から聞いた話だと、全投球、監督からのサインだったとか。また、先日の練習試合では、カーブやチェンジアップも投げていたのだが、この日はストレートとスライダーだけのピッチングとも聞いたことがある。140キロのストレートと120キロ台のスライダーを内外に投げ分けていた。それで抑えるのだから、ストレートのノビ、スライダーのキレ、良かったんだろうなぁ。いやぁ、ムダに大声を出して応援するより、バックネットでスピードガンを構えながら、スコアブックを書いていたかった。

それでも、相手は私立の強豪校、力負けすることなく、フルスイングして捉えていく。この試合は外野フライが多かった。捉えるものの、外野手の守備範囲の網にかかる打球が多かった。当時、自分は知らなかったのだが、監督が相手校を研究しており、バッター、シチュエーションに応じて、守備のサイン、守備位置の指示をしていた。これも采配なのだろうか、偶然なのだろうか。打たれた瞬間、「ヤバい、抜かれる。」という打球が外野手の正面をついていた。攻撃も守備もピッチングも、全て自分でサインを出す監督。今振り返っても、やっぱりスゴいのよ。

試合は両校先取点を取れず、中盤まで進んだが、相手校がタイムリーヒットで2点を取った。2点くらいは想定の範囲内、追いつけるはず。と踏んでいたのだろうが、なかなか相手ピッチャーからランナーを貯めることすらできず、スコアボードは「0」が並んだ。相手校も追加点を取ることができず、2対0で最終回9回表、自校の攻撃が始まった。やっぱりダメか、そんな空気が応援席に漂う中、その回の先頭バッターは9番から。バッターは、2失点しながらも試合を作ってきたピッチャーだった。彼が塁に出れば、まだ分からないぞ。という願いを込めて、応援に熱が入る。相手ピッチャー、高い位置から放ってくる角度あるストレートを捉えた打球は高い金属音を響かせ、打球はライトオーバーになった。フェンスまで転がった打球にバッターは俊足飛ばして、2塁を蹴って3塁へ。ノーアウト3塁、1点は入りそうだが、この回に2点を取って追いつかないと、負けてしまう。バッターは一番に戻り、キャプテン。この大会、まだノーヒット。そろそろ、一本、出るよね。そう信じていた。

いいなと思ったら応援しよう!