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不安と自信は、仕事のあるなしと無関係


「#聞いてよ20歳」というコンテスト用に書いた文章ですが、20歳の人が読んでもあまり意味ないかもしれません。フリーランスのイラストレーターが何年経っても抱えている不安と自信のなさの話です。


小脇に抱えた不安

イラストレーターになろうと思った頃、早く仕事をするのがぼくの目標だった。でもそう目標を掲げる一方で、「イラストの仕事で食っていくことは不可能なのではないか?」とも思い始め、暗い気持ちになっていた。

それでも、いくつかのワークショップや講座などに通ったり、営業をしていたら、しばらく時間が経った後に、書籍のカバーに絵を描く仕事の依頼が来た。

ほぼ同時に2つの仕事があって、これでプロのイラストレーターになれるかもしれない、と期待を抱いた。でも仕事が終わって落ち着いてみると、単発の仕事をいくら受けても、プロフェッショナルが保証されるわけではないことに気づく。いま2つの仕事をやり終えて、でも、これからも継続してお仕事があるわけではないのだ。それに、書籍のカバーのイラストを描く仕事を1回やっても、月々のんびり食べていける額にならなかった。

書籍のカバーのイラストを描くのは目標のひとつだった。でもその目標が1つ達成できたとき、「食えない」ことに改めて思い至る。至るのが遅い。

この仕事を月に何件やれば「生活」できるのだろうか?喫茶店でノートを開き、小学生並みの計算式を書き出してみる。仕事の単価×件数=……。

いや、この掛け算…。月々にぼくが必要な金額に到るまで、数字を少しずつ変えていき、いくつか計算式のバリエーションを出していった。しかし、当時のぼくが欲する金額には、どう計算しても追いつかないように思えた。

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フリーランスの仕事は継続が命である。どれだけパっと見で華やかな仕事をしても、次がなければ意味がない。クライアントも人なので、こちらの仕事の出来不出来にかかわらず、「またよろしくお願いします」と言ってくれる。でも実際はいろいろな要素が絡んで、また同じように依頼をしてくるかどうかはわからない。

とにかく次の仕事が来るかどうかが生命線であり、次がなければフリーランスの仕事は終わる。装丁家の鈴木成一さんは「次に仕事があるのがプロ」だと言っていた。ぼくもそれに深く同意する。その人がプロかどうかは、次に仕事が来るかどうかで決まる。だから現在プロフェッショナルの人も、次の仕事が来るまで、宙吊りの状態なのだ。この宙吊りの状態が不安をつくりだす。

そんなわけで、ぼくは常に不安を小脇に抱えている。いまは忙しいかもしれないが、明日あさってしあさってくらいには、もう暇になってしまうのではないか?という不安。仕事が積み重なって忙しいときは、「ゆっくり休みたいわ〜」と思うのに、仕事がちょっと途切れたり減ったりすると「おいおい…!」と思って不安が増す。

フリーランスは常に、不安との戦いを強いられる。もしフリーランスを目指すなら、その辺りをうまく対処できるように考えておいたほうが良い。申し訳ないけど、ぼくは不安になったときの対処の方法を知らない。小脇に抱えながら、正気を保つ努力だけしている。

何年経っても身につかない自信


似たようなことだが、フリーランスの不安には別の観点もある。
「自信」の問題だ。自信がある人はそのまま突き進めばいいと思うのだが、自信がない人はとかく二の足を踏みがちだ。

「躊躇した結果として、良いことが起こる」ということはない。
意図的に待った結果、良いことが起こることはある。
意図的に攻めた結果、悪いことが起こることもある。
意図的に攻めた結果、良いことが起こることもある。

悪いことが起こるのを絶対に避けたいなら、「意図的に待つ」が良いのだが、なぜ待つのか、その意図が明確にならないまま、「ただ自信がないからやらない」ということが良くある。ありすぎるくらいある。ぼくもいまだにある。大人になってもある。何年もある。

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ぼくがここで言いたいことは、何かを「やる/やらない」の理由を「自信に委ねるのはまずい」というただそれだけのことだ。他の理由があるならやらなくてもかまわない。今は子育てに専念したいとかで、何かにチャレンジしないことはあると思う。その理由が「自信」でなければ良い。なぜかといえば、「自信」は、何年仕事をしていても身につかないからである。驚くほど身につかない。

ぼくは、何年か仕事をしていれば、いつか自信がつくだろうと思っていた。それが全く皆無である。おかしい。恐ろしいほど自信が身につかない。そして、自信がないときにどうすべきか、その対処法も知らないままである。
自信がなくても平気な顔を保つだけの努力はしている。
イラストレーターとしては、むしろ昔のほうが他のイラストレーターを知らなかったから、行けるでしょと思っていた。最近はほかのイラストレーターを見るようになって、ない自信がさらに減退している。

不安と自信のなさの板挟み

フリーランスになってから気づいたのは、不安と自信のなさの板挟みになって毎日が過ぎていくということだ。そして、これはひとつ明るい話題として、不安なままでも自信がないままでも、仕事のあるなしは変わらない。
不安や自信のあるなしは、仕事のあるなしの要因にならない。仕事のあるなしの計算式を書くときに、不安や自信が変数として入ってこないのだ。仕事のあるなしは、他のものに要因がある。むしろ、さらに明るい話題として、不安なまま仕事に着手することで、良い仕事ができる可能性が高まるとも言える。

時々、自分はつくづくフリーランスは向いていないなぁ…と思って、会社勤めを考えることがある。企業の求人広告を見ていると、「いや、会社勤めはもっと向いていないじゃん」と気づく。

そして冷静になって、仕事のあるなしは自信や不安と無関係だと思い直し、仕事のあるなしに関係しそうだと目をつけていることに手をつけていく。誰の励ましにならずに申し訳ないけど、そういう人生もあるという話。

ちなみに、ぼくがイラストレーターになるかな、と思い至ったのは、25歳のころで、そのあとライターになったり紆余曲折あって、結局はじめてイラストの仕事をしたのは確か29歳くらい。


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