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「ロサンゼルスのバス停 #1」

2018年夏のアメリカ滞在の紀行文。
初めて訪れたアメリカで見た景色、出会った人や心に残った出来事について少しずつ書いていきます。

2018年8月初旬

ロサンゼルス滞在も1週間が過ぎ、観光地であるグリフィス天文台でもいこうかと、バス停に座っていた。その場所にものすごく興味があったわけではないが、スタンプラリーのようなものだ。旅先で時には参加したくなる恒例の儀式。

今は1ヶ月間のアメリカ旅行中。できるだけ予算はかけず、現地に暮らしているような生活を疑似体験しようと思いやってきた。

僕は2011年ごろ東京でバンド活動をはじめ、7年間はめまぐるしい毎日を送っていた。バンドを抜け1人になった時、胸の中にある海外移住という引き出しを開けてみた。いろいろ溜まっている願望や欲望やマイルだのを眺め、考えてみる。大学時代にイギリスに数ヶ月だけ留学をしたことがある。また、子どもの頃洋楽に衝撃を受けたことにより、英語と音楽が人生の大きなモチベーションだ。

「よし、とりあえず一回行ってみよう」

実際移住できるかどうかは未知数だが、まず行ったこともない国。味見してみなければ、吐き出すか飲み込むかもハッキリしないだろう。

LA、ハリウッドの北東にあるロスフェリツは、古くからの落ち着いた住宅街があり、古着屋やレストラン、カフェなども立ち並ぶ小洒落た街だ。ヒップスターな雰囲気とでも言うのだろうか。(ヒップスターの意味を調べると、意識の高いオシャレな若者、などなど日本でも良く目にする言葉が用いられている。)昨日はこじんまりとした書店にはいり、読みもしない本を意味ありげに眺めたりした。

バス停のベンチは3人がけ、目的のバスはまったく姿を見せない。ロサンゼルスの交通事情はほとんど麻痺状態にちかいそうだ。慣れ親しんだ日本の交通機関の快適体験などは脳内で消し去るべきなのだろう。目指すべき北の方角は山岳地帯が広がっている、澄んだ夏の空と洒落乙な街並みのコンビネーションが、お前は海外にいるんだという気分を持ち込んでくる。

「横空いてる?」

突然話しかけられたかと思うと、「もちろん」という僕の返事を聞くか聞かないかの間に、彼女は腰を下ろしていた。パステルブルーに黄色い花柄が入ったワンピースに、ボリュームのある黒髪パーマ、真っ白な歯が目に入る。背も178cmの僕と同じくらいだろうか。バスキアにすこし似てる気がする、などと思いつつ

「ハァーイ」

僕は東京のコンビニではなかなか繰り出せない自然な笑顔で言った。(欧米社会でのマナーのひとつである笑顔、これをうまく使いこなすことが出来か否かが、僕の移住計画のチェックリストの大事な項目のひとつだ。)

「どこ向かってるの?」と彼女は大きな口を開いて、笑顔で話しかける。

「グリフィス天文台にいくんだ」と答える。

「えー!私もそこいくよ!」

バスが来た。7割ほど埋まった座席。2人で一番後ろの席へ乗り込むと、バスは山の方角へのそのそっと進みはじめた。彼女の名前はターニャ。数ヶ月前に田舎の州からLAに一人でやってきたそうだ。特にこれといった目的はないが、都会にでてアルバイトをしながら暮らしているらしい。

「もし1年でここに留まる何かあればそうするし、無ければ戻るかなあー。まだなんにも起きてない!」

まっすぐに澄んだ目は、子どものようでもあるし、愛をたっぷり注ぐ親の顔が写り込んでいるかのようだ。バスはだんだんと坂道に差し掛かり、目線も自然とうねった山道へと向く。山道とはいっても、綺麗に整備されていてうまくコントロールされた自然といった感じである。LAは街自体がぜんぶセットみたいだよ。なんてネットの口コミもあながち間違いではないだろう。

つづく

参考:バスキアのご尊顔は公式サイトへどうぞ
https://www.basquiat.com/

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