3つの切り口からつかむ図解中国経済 2.8 「インターネットプラス」

ポイント

  1. インターネットをさまざまな領域で活用してイノベーションを引き出すイニシアティブ

  2. 国家情報化発展戦略要綱で21世紀半ばまでのビジョンを提示

  3. サービス分野では草の根的に発展

  4. 製造業と農業については、トップダウン型で進行

  5. 移動通信規格第5世代(5G)への移行で、そのシーズの増加が期待


「インターネットプラス」は、2015年3月に開催された中国の全国人民代表大会(国会に相当)において、李克強首相が政府活動報告で提起したことに始まる。

当時の中国は、インターネットが急速に普及する過程にあり、利用者の比率が5割を超え電子商取引(EC)が2桁の伸びを示し、新たなビジネスを生み出すようになっていた(図表-1)。

そのインターネットとさまざまなものを結びつけてプラスすることにより、イノベーションを加速させようとしたのが「インターネットプラス」である。

中国政府が2015年7月に発表した「インターネットプラス」行動計画を積極的に推進することに関するガイドラインでは、図表-2のような具体例を挙げている。

中国政府の方針

中国共産党と中国政府は2016年7月、統一的推進、革新(イノベーション)による牽引、発展の駆動、民生への恩恵、協力・win-win、セキュリティの確保という5つを基本方針とする「国家情報化発展戦略要綱」という文書を発表した。

この文書は今後10年間の情報化に関する綱領的文書と位置付けられている。

そして、「国家情報化発展戦略要綱」には中国の情報化に関する戦略目標が記載されている。

そのポイントは図表-3のとおりである。

インターネット“+α”の具体例

インターネット+小売り

ここで、インターネットプラスの具体例をいくつか紹介していく。

中国の小売販売は店舗から電子商取引(EC)へと急激な変化している。

EC化は世界的な潮流でもあるが、中国のインターネットユーザ数は2016年時点で7.3億人(図表-4)、米国の約3倍、日本の約6倍と巨大であり、国外から商品を仕入れる越境ECを通じて、世界の小売企業にも影響を与えるため注目を集めている。

なお、ECに関しては以下のページも参照のこと。

インターネット+医療と+教育

インターネットを“医療”や“教育”いったサービス産業と結びつける動きも勢いを増している。

「インターネット+医療」では、インターネットを通じた遠隔診療や電子処方箋が増えており、特に、医療機器で診断しなくても済む再診では効果が大きく、利用者は増加している(図表-5)。

また、「インターネット+教育」では、インターネットを通じた小中学生向けのライブ配信授業や家庭教師サービスなどの利用者が増加している(図表-6)。

インターネット+先進製造業

インターネット+小売り、+医療、+教育が草の根的な企業活動で盛り上がりを見せる一方、中国政府がトップダウンで進めるインターネットプラスもある。

中国の国務院常務会議は2017年10月、「インターネット+先進製造業」の推進に向けた基本方針を決定した。

その会議では、中国経済を近代化し製造強国になるためには「中国製造2025」の実施をインターネットプラスと結びつけることが重要だと指摘している。

なお、「中国製造2025に関しては、下記のページを参照のこと。

インターネット+農業

「インターネット+農業」もトップダウン型で進められている。

中国の国務院常務会議は2018年6月、インターネットプラスを農業分野で強力に推進することを決定した。

その会議では、

  • 農業生産面

  • 農作物出荷面

  • 農業関連起業

という3つの施策を打ち出した。

中国では「インターネット+農業」が極めて重要である。

「世界の工場」と呼ばれるようになった中国だが、就業者の27%に当たる約2億人は今でも第一次産業で働いており(図表-7)、第二次産業や第三次産業でインターネットプラスがイノベーションを起こしても、農業でイノベーションが起きなければ、都市と農村の所得格差がさらに開いて社会問題となりかねないからである。

農村部のインターネット普及率は38.4%と都市部の74.8%に比べて遅れているが、その差は縮小傾向にあり、電子商取引業務量指数(2015年1月=100)は全体を大きく上回る伸びを示している(図表-8)。

今後の展望

以上のようにインターネットプラスは、中国の多様な分野でイノベーションを起こす経済の起爆剤のなっている。
 
そして、2020年前後に商用化が始まった次世代移動通信規格「第5世代(5G)により、通信速度が飛躍的に向上して、インターネットプラスが生み出すイノベーションのシーズ(種)もますます増えている。

ただし、中国の製造業にはコア技術の不足という大問題がある。
 
米中貿易摩擦が深刻化して、米中関係が根本から崩れてしまうと、米国から部品を輸入できなくなり、2018年に中興通訊(ZTE)が通信機器の生産停止に追い込まれたようなことが多発する恐れもある。
 
コア技術が不足する中国企業には製造できない部品がまだ多いからである。
 
インターネットプラスを進める上でも米国との良好な関係が重要である。

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