- 運営しているクリエイター
記事一覧
『歌いたい』-きたりえの視点(1)
きたりえの視点を引用して小説っぽいものを書きました。もし暇があれば読んでみてください。事実に基づいたところもありますが、多くは想像で書いています。ご容赦ください。
--------------------------------------------------------------------------------
*
1.2014.5.25『RESET』
里英はその日をとても
『歌いたい』-きたりえの視点(2)
2.雨 - akb48show
雨が一様に降り続けている。
夏から秋へと変わりゆく季節の雨は、不意に忘れかけていた記憶が鮮明に蘇るように、気持ちをどこか遠くにさりげなく連れ去ってしまう。
里英は窓の外を眺めていた。
雨に煙る眼下のビル群はひどく非現実的に見え、のっぺりとして遠近感を失っていた。
高層ビル群は、上空の雲から降りしきる雨を静かに浴びて、内側に小さな世界を抱えている。
『歌いたい』-きたりえの視点(6)
6.十字架 – 夢想 – 現実 – 葛藤
撮影を行うステージはほの暗く、天井の照明が撮影セットの輪郭を寒々しく浮かび上がらせていた。
鉄骨の足場がステージの中央に2段、3段と組まれ、硝子柱がそれを取り囲むように立てられている。あるいは硝子柱は、折り重なるように倒れて、中には砕け散って硝子がばらばらと床に散らばっているものもある。
不穏な雰囲気に、里英をはじめとするメンバーみな、息をのん
『歌いたい』‐きたりえの視点(7)
7.摩天楼の距離 - レモン - カルビ - 私は私
「だめです。もう一度やり直し」
監督の声が一人のメンバーのセリフを遮る。
そのメンバーは少しうつむいて最初の立ち位置に戻る。
里英たちほかのメンバーはステージの脇でその様子を見守っていた。
このMVの一人ひとりのセリフはそんなに長いものではない。この舞台がミュージックビデオに収録される時間も10分か長くてもせいぜい15分程度だ
『歌いたい』‐きたりえの視点(8)
8.歌いたい
休憩明けの練習では、カメラや照明の確認を行いつつ、演技を通しで行った。今度は、監督は途中では口出しをしない。一通り終わった後で、それぞれ必要なメンバーには改善点を言い渡す。美織もどうやら吹っ切れたようで休憩前よりも進歩が見られる。何度も回数を重ねていくうちに次第に舞台としての形が整っていくのを里英は感じた。
そして撮影本番を迎える。
「十分な準備ができているとは言えませんが
『歌いたい』‐きたりえの視点(9)
9.私のために、誰かのために。
里英のセリフに続いて曲のイントロが流れ出す。
阿弥が歌い始める。心の歌を。希望の歌を。
私は今、歌い始める
かすかな光に
手を、そっと伸ばして
少し不安定だが、強い決心を思わせる声だ。里英も勇気づけるようにそれに合わせて歌う。
座りこんでいたメンバーたちも立ち上がり、忘れていた歌を歌い始める。歌は次第に大きく、力強くなっていく。いくつもの支流がつな
『歌いたい』‐きたりえの視点(10)
10.撮影後‐阿弥との会話‐亜樹との会話
歌が終わる。静寂に包まれる。
メンバーたちは皆、宙を仰いだまま呆然と歌の残響を感じていた。やがて、その静寂を打ち破るように力のこもった拍手が鳴り響いた。監督の拍手だ。それに続いて各スタッフたちの拍手も舞台上のメンバーたちを称賛した。
その温かい拍手の音を聞き、メンバーたちは安堵の表情を浮かべ、互いに喜びを分かち合った。手に手をとり、互いをたたえ
『歌いたい』‐きたりえの視点(11)
11.もちくらさんでーらじお
…
(音楽)
「へい、へーい♪
倉持明日香の『もちくらさんでーらじお』
AKB48、フレンチ・キスの倉持明日香がお送りします。
さあ、今日もさっそく無茶ぶりトークBOX、その名も『ちゃぼ』からお題を引きましょう」
(ゴソゴソ…)
「今日のお題はこちら!
『女子力』!
ということで、女子力はちょっとだけ自信がありますよ、私。
最近は冬に向
『歌いたい』‐きたりえの視点(12)
12.2014.12.8 ‐ 永遠より続くように
12月8日、午後4時頃。
里英は途方に暮れていた。
本番前の楽屋は混雑を極める。
メンバーの人数が多すぎて座る場所もほとんどなく、さまざまな声が飛び交いざわめきが絶えることはない。
あちらでは化粧品を貸してくれ髪をアレンジしてくれとメイクで忙しく、こちらでは弁当やお菓子を食べて雑談する一群があり、また別のところでは今日披露する曲
『歌いたい』‐きたりえの視点(13)
13.2014.12.31‐心のプラカード、鼻ピーナッツ、リスタート
大晦日。
「来年は全グループが紅白に出ることはできないでしょう」
みなみは本番を目前とした全体(総勢300人近い)の円陣の輪の中でそう言った。
里英は、紅白歌合戦が終わった後も、みなみのその言葉が海底にしっかりと食い込んだイカリのように里英の心の中の何かをいつまでもとらえて離さないことを意識せざるをえなかった。
『歌いたい』‐きたりえの視点(14)
14.2014.6.28‐世界中の雨
--------------------------------------------------------------------------------
半年前。
夏を目前に控えた頃だ。
里英たちはバスに揺られてまっすぐに続く道路を進んでいた。
里英はバスの中ほどの窓辺の座席に座っていた。
隣には同じチームKの阿部マリアが座り、そ