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母とスーパーカーを聞いた

私は両親の馴れ初めも、結婚記念日も知らない。というか、恥ずかしくて聞く気になれない。
私の恋愛事情はベラベラ喋るが、親の恋愛事情は知りたいと思わない。

先日、2週間ほど帰省した。あまりにも暇だったので毎日地元をドライブしたが、微妙に飽きてきた。去年の8月にAT限定の自動車免許を取ってから、教習以外で高速に乗ったことがない私。自分の運転で遠出がしたかった。
しかしひとりで高速に乗るのは心細い。だから母を誘って、私の運転で、しかも軽自動車で、片道2時間のラーメンドライブを決行することにした。

その日の気分はスーパーカーだった。

天気予報は晴れだったのに、トンネルを出ると大粒の雨がフロントガラスを打ちつけた。前を走るトラックを追い抜こうとして、水しぶきで視界不良。ETC割引が始まる前日だからか、工事をしている車線が多くて思い通りに走れない。叫びたくなるほど最悪な高速道路デビューだった。

「怖いならスピード落としな」と母が言う。私は母に当たってしまった。すごくイライラしてた。「運転中に本性が出る」というから、自分に絶望して思わず涙が出た。
母に「スーパーカーっていうバンドかけて」と、私が言う。スリーアウトチェンジが流れる。
『cream soda』の爽やかすぎるメロディーが、車内に似合わなすぎて逆に笑えてきた。

母は結婚前にスリーアウトチェンジをよく聞いてたらしい。アルバムが出た年が1998年、私が生まれる2年前。
そんな話を聞いてたら『DRIVE』が流れた。
ねえ、そんな目じゃきっと涙しか見えないよとミユキちゃんが言う。

「なんか胸がザワザワするわ。懐かしくて」と母が言う。
ジジババの家の二階、左側の母の部屋を思い出す。
母は結婚前ひとり暮らしだったろうけど、なぜか私は、母が自分の部屋で寝っ転がりながらMDでスリーアウトチェンジを聞く姿を想像してしまった。

雨が強くなっていた。目的地まであと1時間。
『Lucky』が流れる。母が「なつかしい!」と言う。母は父と結婚する前に、Luckyを聞いて何を考えていたんだろう。母も父も車が好きだから、二人でこれを聞きながら、ドライブしてたのだろうか。娘の気持ち悪い妄想だが…

懐かしい音楽を聞いて、胸がざわめくのがすごくわかる。どうしようもない気持ちとか、胸に閉じ込めてた思いとかを思い出して、私は泣き出したくなる。母もそうなのだろうか。
私はこのnoteを、スリーアウトチェンジを聞きながら書いている。

高速をおりると雨は止んで、その後、目的のラーメン屋に行くまでの道のりで40分くらい迷子になった。イライラしすぎてまた泣いたら、母が笑ってた。「トムヨークの声が1番落ち着くわ」という母は、道を間違えまくって泣く娘を見て爆笑する母は、なんか変人に見えて怖かった。
けれど、涙を流すくらい狂ったように笑う母を私は21年間生きてて初めて見たかもしれない。

父はその姿を見たことがあるのだろうか。帰ってから父にその話をすると、苦笑いしていた。妹はつられて笑っていた。

ホームシック真っ只中の私は、『Happy talking』を聞く。

このままいっそ、朝になっちゃえば
つまらないあんなことなんかもね
思い出したりしないで
笑い声にでもなって
夜も長くなくなっちゃうのに

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