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先日、初めてAirPodsを失くした。
新幹線での移動中、目を閉じて音楽を聴いていたら、そのまま眠ってしまった。目を覚ますと、右耳のAirPodsが外れていることに気づいた。あらまぁと思いながら座席の周辺をなんとなく探したが、中々見つからない。服の中に落ちたかと思って、上半身をもそもそ触ってみても何もない。どうしたものか。とはいえ、モノを失くすことは日常茶飯事なので、別に慌てたりはしなかった。どうせどこかにある。これまでだって、失くすたびに大抵はそれでも見つけ出してきた。
そういえばiPhoneには、周辺機器の所在地を探せる機能があるんだった。アプリを開いて、右耳のAirPodsを所在を確認すると、自分の座席の後方3メートルあたりに青い点で表されたポイントがあった。なるほど、おそらく耳から外れたAirpodsは転がって、そのまま後ろの方に行ってしまったんだ。すぐに後ろの方に探しに行けば良かったのだが、なんというか、そこで自分の動きが止まってしまった。
車両の乗車率は50%ほどで、AirPodsが転がっているであろうエリアにも乗客が座っていた。探しに行きたいけど、そのエリアの乗客に「AirPods落ちてませんかね?」と断りを入れることにものすごく抵抗感があった。周りの乗客はみんな普通に席に座っているのに、自分だけが落ち着きなく探し物をして、挙句他人の座席にも立ち入りだす、そういうことがとても恥ずかしいと思ってしまった。自分だけが他の人と違う行動をとっているという状況に、ものすごくストレスを感じてしまう。それにもしも、わざわざ他人に断りを入れて座席の下を探した末にAirPodsがなかった場合、アプリの情報ではそこにあるというわけだから、つまりそこに座っている乗客が私のAirPodsを持っているという可能性が出てくる。聞けるか?その人に。「あなた、私のAirPods持ってませんか?」って。本当に情けない話だけど、自分には聞く度胸がなかった。
結局、後ろの方に探しに行くという行動は取れなかった。代わりに自分の座席から思いっきりしゃがんで、後ろの方に転がってないかライトで照らしながら目視で確認するという行動をとった。幸い自分の座席の横並びには、自分以外に人はいなかったので、こういうフリーキーな手段も取れたわけだが、いかんせん恥ずかしすぎる。もうとにかく恥ずかしいんだ。こいつどんだけAirPods探したいんだよwみたいな。そんな意地悪なことは周りの乗客は考えないだろうし、仮に人がそういう風に探し物をしていても自分はなんとも思わないし、というかAirPodsってめっちゃ高いんだしさぁ。でも探している間、本当に恥ずかしかった。しかも探したところで、結局なにも見つからないという最悪の展開。じゃあ、あの辺に座ってるやつが持ってるじゃねぇか。なんでそんなことを…なんでそんな俺を試すようなことをするんだよ…。
そうこうしているうちに降車駅に着いてしまい、もう私の頭の中は完璧に混乱状態である。最後のエネルギーを振り絞って、降車するときに後方の座席の横を通っていこうと心に決める。もしかしたら乗客の足元らへんにAirPodsが転がっているかもしれない。もしなかったら?そこに座ってる馬鹿が俺のAirPodsを持っているのかもしれない。そうだとしてそいつに何か質問できるか?できないかもしれない。盗んだやつよりも、その盗みを指摘できない自分の方が、愚かなのかもしれない。
新幹線がもう停車してしまうその時に、私は立ち上がった。そして意を決して、車両後方に向かって歩いた。見ろ、座席の足元を確認しろ、今だ、見た!ない!ダメだ!立ち止まれない!あぁ、本当に右耳のAirPodを失ってしまった!
回転寿司の皿みたいにスーッと通り過ぎて、そのまま駅のホームに降りてしまった。負けた、負けた。何かの間違いであってほしくて、今一度自分の服の中やリュックの中にAirPodsが紛れていないか、竜巻みたいな勢いで必死に確認したが、やっぱりなかった。新幹線のドアが閉まり、発車していく。iPhoneのアプリでAirPodsの所在を見たら、その青い点はだんだん自分から離れていくばかりだった。