鐘を鳴らして君を探そう #リライト金曜トワイライト(オマージュ)
金がない。コネもない。明日を生きる為に稼がなくてはならない。しかし、明日、生きる必要があるのだろうか。金を稼ぐために駆けずり回る。高校の時に買ったスタンスミスはアスファルトの擦れ後だけでなく、わけのわからないもので汚れている。生きる余裕があった時の物が汚れていくのは、希望とやらが汚れて行くようだ。
学生、なのだろうか。大学に行く時間もないので実感もない。学費を稼いでも通えない。家族はいつの間にか分解していた。一番心が通じあっていたと思っていた兄が虚無の中に引っ張られていった。帰るべきところは、ない。走っても走っても息が切れても走る。でも、自分の意志ではなく、希望に向かっているわけではない。走らされているだけ。
バイト先の先輩がすさんだ僕を見かねて、時折飲みに連れていってくれた。正直、ありがた迷惑だ。早く自分の狭苦しい家賃2万8千円の部屋に帰って寝たい。
あなたがいた。僕には全く場違いなワインバーに。ビリヤード台の周りだけ空気の粒子が違う。あなたのビリヤードは、あまり上手くなかった。だからといって声を掛けた訳じゃない。その佇まいに魅かれて気が付いたら声を掛けていた。
僕の擦り切れた格好なんか気にせずに、あなたは微笑んでくれた。
4人掛けのテーブルで、深夜のピザ。誰にもわからないように足の指で僕の脛をなぞった。大人の女性が若い何も知らない男の子をからかうように。子ども扱いかよ。にらんだら、舌を少しだけだしておどけた。すり減った僕に暖かい光だった。
仕事、何をしているの、と聞いたけど、そんな事知りたい訳ではなかった。その小さな唇が言葉を紡ぐのが見たかった。銀行強盗、銀行強盗だから、しっかりと探すのよ。探して捕まえるのよ。その透き通った秋の空の様な声で耳元でささやかれた。聞こえないふりをした。もっと近づいて欲しかったから。その唇が、銀行強盗だから、もらっていい?と動く。今となってはピザだったのか、そうでないのか、それとも他の誰かだったのか、わからない。
僕は気が付いていた。あなたが抱える空虚なものを。僕の抱える虚無とは違う、しかし、似た色合いのものを。でもそんな事を伝えられる語彙力も会話も出来ない。そして知る。あなたの彼も二度と話す事が出来ない遠い場所に行ってしまっていた。
何かを埋めるような僕たち。でも埋めようと思っても埋められるはずはないもの。
石川町のホテルはぼろかった。古いだけで何とか威厳を保つ。しかしその虚勢の張り方は僕たちに似合っている。何かをする度にあらゆるものがきしむ。その軋みも僕たちと同じ。ベッドであなたに奪われるような勢いで押し倒された時もホテルは軋んだ。お互いの何かを溶かすような、こぼれるような口づけ。
目が覚めたらあなたはいない予感がした。でも、あなたはいた。美しい朝の佇まいで。僕のくせ毛の頭を更にくしゃくしゃにして顔を引き寄せ、僕もあなたの少しだけ淡い茶色の髪に手を伸ばした。朝の光のもとで。でもあなたの栗色の瞳にある影は消えない。教会が乾いた鐘の音を鳴らした時、あなたは僕の肩に指を這わせ、フロントからの催促のベルも気にせずに。鐘の音、教会なのね、あの音は…。あなたはその後の言葉は紡がなかった。いつか消えてしまう気配を振りまいて。
僕たちは教会によく行った。教会の鐘が鳴るのを見計らって。鐘が僕らの何かをそぎ落とすように望んでなのか。でもそぎ落とされない。
バイトで使っていた古い日産ADバン、ディーゼル15万キロマニュアル。そんな車に乗ってくれたあなた。ボロな車に場違いなあなた。僕の下手くそなマニュアルに呆れて運転を交代した。スムーズなクラッチ操作。フィアットアバルトやランチアデルタに比べればチョロQみたいなものよ。
何枚かのCDをあなたは持ってきてくれた。しかし全てのCDで何故か1曲目しか聞けないポンコツプレイヤー。笑いながらCDを取り換える。結局ニールヤングの「ハート・オブ・ゴールド」ブルーススプリングスティーン「Thunder Road」そしてユーミンの「VOYAGER〜日付のない墓標」、3曲を繰り返し聞く羽目になった。
ユーミン以外は随分と古くて男前な曲だけど。
時の洗礼を受けたものでないと、聞く気にはなれないわ、そしてユーミンのVOYAGERは男前な曲よ。一人で宇宙へ消える歌。で、男前って何?
日が沈む間際、横浜ベイブリッジを駆ける。このボロい車までもが紅く金色に染まる。金星が浮かぶ。
星占いだとね、金星は愛や絆であらゆるものと繋がろうとするらしいのよ。
その魅力をまき散らし、前触れもなく笑い出し、クールな考察をするけど前提が違ったり。二人で大笑いした。それでもそぎ落とせない、空虚な闇。僕たちは希望を使い切り、呆然と何もない未来をごまかすしかなかった。輝くことなど出来るのだろうか。
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空がどこまでも高い秋、前触れもなく、またね、と電話であなたは言った。受話器の向こうではざわめいた音がしていた。呼び出しのアナウンス。英語が混じる。
それから会うことは、なかった。
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ネットであなたのこぼれるような笑顔を見つけた。
バカルディ レガシー カクテル コンペティション、入賞。
あなたは自分の力で輝く事が出来たのか。
しかし、何かがあなたをを覆っている気がしてならなかった。
それに気が付いたのならその時に動いていても良かったのかもしれない。
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仕事がいくつか軌道に乗り、事務所を構えるまでになった頃、疎遠になった知人のFacebookを眺めていた。友人の欄。あなたがいた。顔はとても小さくしか写っていなかったけど、あなただ。名前は英語表記。モニターの前から動けない。あなたの公開設定の投稿を食い入るように。昔と同じあなた。場所は、アメリカだ。
数日間それを眺めていた。それだけを眺めていた。
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夜中に何かが頭を蹴飛ばした。スマートフォンからあなたのFacebookタイムラインを見る。写真に何かがある。スマートフォンではなく、pcを立ち上げる。見ることが出来る写真全てを拡大させ何度も見る。
わずかながら写っている、教会が。全ての写真に。何を見ていたんだ、自分の鈍さを殴りたくなる。もう一度タイムラインを遡る。
LA ベガス アルバカーキ オクラホマシティ ダラス セントルイス インディアナポリス コロンバス ピッツバーグ フィラデルフィア ロングブランチ ニューヨーク
途中前後している箇所もあるが、西から東。
行かなければ。君を探しに。どうせなら鐘を鳴らしたっていい。
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事務所を後輩に全て任せて身を引く。かなりの混乱を色んな人に押し付ける。国外免許証とパスポートの確認。レンタカーでの移動になる。音楽も重要だ。Bluetoothがついていないレンタカーの為にCDも。あの時二人で聞いた3枚。
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ロスの空港税関で止められる。そんな事は初めてだ。税関の明るい姉さんは、決まりだから我慢してねと明るく僕の荷物をあさる。CDに目を止める。
ボス聞くんだ。
ボスとはブルーススプリングスティーンの愛称。
何が好きなの?
Thunder Road
それから質問責めだ。散々聞かれた後、
何をしにアメリカへ。
昔の彼女を探しに来たんだ。
凄いわね。ということはあなたの彼女はメアリーなのね。
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レンタカーを借りる。CDをカーオーディオに。
また何かが頭を蹴とばす。二人で散々聞いた3曲。
「ニールヤング ハートオブゴールド」
俺は「黄金に輝く心」を探し続ける鉱夫なんだ
「松任谷由実 VOYAGER〜日付のない墓標」
冷い夢に乗り込んで
宇宙に消えるヴォイジャー
私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから
「ブルーススプリングスティーン Thunder Road」
さあメアリー
ここは敗れた者たちであふれた街だ
俺たちはここを出ていく。勝者になるために
さあ行こう
この3曲、偶然なのか。違うのか。
消えかかった心の輝きを鉱夫の様に探し当て、昔の思いはしっかりと胸に抱き、ここを出ていく。
彼女はメアリーだったんだ。
しっかりと抱きしめて一緒に歩むべき人だったんだ。
果てしない暗闇の果てに見える一筋の光を探し当てる。
もう時間はないはずだ。
とにかく、車を東に走らせよう。
彼女がいるいないに関わらず。
でも必ず探し当てるさ。
鐘を鳴らして君を探そう。
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#リライト金曜トワイライト こちらの企画に参加。
リライトしたのはこちらの記事です。
(リライトではなく、オマージュです)
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追記
池松さんに謝ります。ごめんなさい。改編になってしまいました。改編どころじゃないですね。オマージュというのでしょうか。改悪になっていなければ良いのですが。物語を沿っていない箇所が相当あります。特に後半。書き始めたら止まらなくなってしまった。
実はお誘い頂いた後に、かなり早く大方書きあげていました。しかし、ほかの方の投稿を拝見して、これは、どうも違うのではないかと。
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「鐘を鳴らして君を探そう」。人生に大事なエッセンスが濃縮されている気がしたんです。このnoteにしました。そして「君を探す」ことにゴリゴリ焦点を当てました。で、飛んで行きました。
池松さんの「金曜トワイライト」もちろん毎回読んでいました。恋とはせつなくて消えてしまうもの。でも思い出は心に残る。
でも僕らは年を重ね、何も意識しないと心に残るどころか何も残らず喪失ばかりになってしまうかもしれない。
池松さんの「レーダーチャート診断 Ver.2」を受けました。
感想noteを書いておらず心苦しいのですが、そのフィードバックで池松さんは私にこう、述べて頂きました。
「若い人が元気になるお話しを期待してますこんな時代ですから」
自分が元気ではないのに、若い方を元気にすることなど到底できない。それであれば自分が元気になるお話を池松さんのお話に乗せさせて頂く。これであれば。
最近私はnoteでロケンローをほざいております。だからどっかへ走り出すロケンローを。#リライト金曜トワイライトに自由と希望のロケンローが一つぐらいあってもいいかなと。甘えたことをいっております。ごめんなさい。でも、とても楽しかった。
結びに。
この企画に引き込んで頂いたsiv@xxxxさん、そしてさらにその後押しをして頂いた地中海性気候さんと金魚風船さんに感謝します。
(ご指名受けたときは、ほんとびっくりしましたねぇ、ととさん。)
(でも最高に楽しかった)
(ご指名受けたら、何でもやりますっ)
池松さん、ありがとう。この企画、楽しかったです。