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物語:ムンクの叫び

先生は1枚の絵を黒板に貼り付けた。
「ムンクの叫び」だとすぐに解った。
今日の授業はどうやら模写らしい。

昨日配られた新品の絵の具セットを
生徒たちは机の上に広げはじめた。
皆同じアクリル絵の具。
皆同じ絵筆。
皆同じパレット。
つまらない。
被写体も同じ絵だ。
非常につまらない。

模写時間は2時間。
休憩自由。

「よーい、はじめ。」
先生の掛け声で、皆黙々と描きはじめる。

僕はまず橋のラインを写し取った。
それから空。
そしてこれは…川?かな。
大体の構成を写し取ってから
細かく描くスタイルなんだ。

ふと斜め前の女子の絵に目が行った。
叫んでいる坊主頭から描いている。
ほほう…面白い。
そいつの隣のヤツは…空から。
へぇ…変わってるな。
皆描きはじめるところが違う。
皆違って皆良い。
そう、こうでなくっちゃ。
僕はそう思った。

スタートから20分。

あらかた構図をとった僕は、
皆の描き方が気になり、
トイレへ行くフリをして席を立った。

ほほう、コイツは坊主頭から。
ほほう、アイツも橋から。

生徒20人中、
僕と同じスタイルが10人か…
僕は普通だったのか。
ちっ…
坊主頭から描いたのは7人。
意外といるな…
他は空からか…。

特に新しい発見もなく、
僕はそのままトイレへ向かった。

出るものは特になく、
何となく鏡の前に立った。
僕はなぜだか無性にあの坊主頭のポーズをしてみたくなった。

確か頬っぺたに...
いや、違う、
耳を塞ぐ感じだったな…

そこで気がついた。
おや?
叫んでいると言うより、
叫び声に耳を塞いでいる感じだな…
いったい何を聞きたくないのだろう…
そう言えば口も大きく開いていたな…

やめてーっ!聞きたくないーっ!

って感じか?

僕は何だかひとりでトイレにいることが怖くなって、足早にトイレを後にした。

教室の扉をそぅっと開けた。
すると奇妙な光景が目に入った。

コイツの坊主頭は上を見ている。
アイツの坊主頭は下を見ている。
あっちのヤツは左。
そっちのヤツは右。

…気持ち悪い。
何が起きているんだ?

僕は身震いして、急いで自分の席へ戻った。

それから恐る恐る黒板の坊主頭に目をやったんだ。

…!
白目だ。

何が起きているんだ…
トイレで変なことをしたからか?
「ムンクの叫び」と共鳴しているのか?

斜め前の女子の絵はどうなっている…?
…!

坊主頭がこっちを見ている…
ガッツリこっちを見つめている!

「うわっ!」
思わず声を出してしまった。

その声に反応して斜め前の女子がガバッと振り向き僕を見つめてきた。
その目は彼女の描く坊主頭と同じ目だった。

「う…うわぁあ!」
もっと大きな声が出てしまった。

すると、教室中の生徒がガバッと振り向き僕を見た。
その目はやはり、
斜め前の彼女の描いた坊主頭と同じ目だった。


気がついた時には、
僕は保健室のベッドで寝ていた。

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エピローグ 
「あいつ、倒れる前に叫んでたよな…。」
「な。あれ、ムンクの呪いじゃね?」
「こわっ!あははは」

「はいはーい、皆さん描けましたか?目線は自由にって言いましたよね。その目線にした理由を明日聞きますので、ちゃんと答えられるようにしておいてくださいねー。」
「はーい」

「いーじー君はトイレに行ってたから、聞いていないと思うので、先生から伝えておきますね。いーじー君は…いつもああなの?急に叫んじゃって…心配ねぇ。」

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