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【短文レビュー/邦画新作】『八犬伝』曽利文彦監督・・・出鱈目な現実は、筋の通った虚構では救うことはできないのか

トップ画像:(C)2024「八犬伝」FILM PARTNERS.

監督&脚本:曽利文彦/原作:山田風太郎
配給:キノフィルムズ/上映時間:149分/公開:2024年10月25日
出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、小木茂光、栗山千明、磯村勇斗、立川談春、黒木華、寺島しのぶ

鶴屋南北は主張する。この現実は出鱈目で辻褄など無いのであり、それならば自分の作る虚構の物語もまた出鱈目にするのだと。大嫌いな「忠臣蔵」にも「東海道四谷怪談」を無理くりくっつけて、出鱈目なものにしてやったのだと。そもそも「忠臣蔵」は辻褄のある王道の物語なのかという疑問は無くもないが、筋の通った勧善懲悪の英雄伝こそが虚構の真髄であり、どうしようもない現実を救うのだと信じている曲亭馬琴は、鶴屋南北の作る虚構の世界に大きく戸惑う。

本作『八犬伝』は、劇中で鶴屋南北が「忠臣蔵」にしたことを、「南総里見八犬伝」に対して行っている。なんせ、劇中作であり本来は壮大な英雄伝であるはずの八犬伝はあらすじ紹介のごとく淡々と進み味気ないのに対して、現実である馬琴の生きる江戸時代のほうは、ほとんど老人同士の会話でしかないのに、しっかりと重厚に作られているのだから。これが物語の解体でなくて何だというのか。

八犬伝という薄っぺらな虚構と対比されることで、馬琴の生きる現実パートがより濃密に描かれている。これは、八犬伝パートが実力未知数の若手で固めているのに対して江戸時代パートは時代劇にも慣れているベテランの役者で固めている配役からして、明らかに意図的であろう。

そして後半、あの実在の人物に、あの台詞を言わせる邪悪さたるや。あの人物が後にどうなるかを知っている観客は、彼が馬琴から受け取った「虚も突き通せば実となる」という思想に、複雑な感情を受け取らざるを得ない。勧善懲悪の英雄伝なんて、何も現実を救うことなどできないのだと痛感する次第だ。

ただ終盤になると、江戸時代パートではとってつけたような家族愛のエピソードが急に始まり、唐突な印象を受ける。かなり蛇足に感じてしまうが、これ実は歴史上の史実なのだから仕方ない。薄っぺらな虚構と対比させて現実の世界を際立たせていたのに、本当の現実によってせっかく丹念に積み上げられていた重厚さがあっさりと壊されてしまっているのだ。これもまた、やはり世界は出鱈目なのだと示しているかのようである。

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