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委任戦術 電撃戦を支えた指揮方法

1,前書き

 委任戦術は第二次大戦時にドイツ軍が採用していた指揮方法である。

 戦争では戦車や航空戦力など、目に見えやすい要素が取り上げられがちだ。しかし指揮手順という、目に見えない要素も勝敗を語るうえで重要となる。
 今回は委任戦術を例とし、非物質的な要素の重要性について語る。

2、電撃戦の概要

 委任戦術について書く前に、その戦術が活用された戦いの概要を説明する。

 第二次世界大戦において、ドイツ軍はヨーロッパ最強の陸軍を持つフランスを六週間で崩壊させた。ドイツ軍の電光石火の勝利は『電撃戦』と名付けられ、世界に喧伝された。
 現代でも戦争を学ぶ者ならば、電撃戦は避けて通ることはできない。電撃戦を解説した本は多いし、インターネット上にも情報が散乱している。
 電撃戦が成功した要因としてよく言われるのは、戦車の活用である。ドイツはフランスの防衛線のもっとも弱体な点に戦車戦力を集中して突破。突破後は北上して海岸にまで到達。フランス軍が最も多く兵力を配置していた地域を包囲し、海へ追い落とした。このことでドイツ軍は数の上で有利に立つ。勢いそのままパリを陥落し、フランスは降伏。
 これが一般的な説明である。次の節からは本題の委任戦術について書く。

3、委任戦術
 委任戦術とは前線の指揮官に大幅な行動の自由を与えることだ。指揮官たちは目の前の状況に応じて判断し、上官の指示を待たずに行動することができた。さらに命令のやり取りも速かった。前線指揮官と、軍団長レベルの人間は数分から数時間というスパンで情報をやり取りできた。
 対するフランス軍の指揮系統は硬直していた。経路の変更や陣地変換などでもいちいち命令を仰がなければならなかった。命令自体も形式を重んじ、作成に時間がかかった。さらにやり取りも遅く、数日のスパンで行っていた。
 これにより、フランス軍の対応は常に後手に回った。ドイツ軍は小さな勝機を逃すことなく行動し、フランス軍は対処が追いつかなかった。小さな有利が積み重なって全体への勝利に大きく貢献したのだ。

4、補足
 孫子は13篇からなるが、そのひとつでは“勢い”を扱っている。いわく、「ゆえによく戦うものは、これを勢に求めて人に求めず、ゆえによく人を選びて勢に任ぜしむ」と。
 ドイツ軍の委任戦術は勢いを生み出し、兵たちを勢いに乗せることができる指揮方法だった。フランス軍は自分たちで自軍の勢いを止めたのである。

5,まとめ
 人間はともすれば目に見えるものを重んじ、目に見えないものを脇へやりがちだ。電撃戦でも戦車ばかりもてはやされ、その裏にある指揮手順が取り上げられることが少ない。
 しかし無形の要素もまた、勝敗を決することがある。指揮手順だけでなく、キリスト教国家同士の戦いでは敵軍の信仰心を揺さぶることで兵力差を覆した例もある。
 戦争について論じるときは物質面だけではなく、非物質面にも着目しなければ、その全体を正しく把握することはできない。

6、おまけ
 昔書いた第二次世界大戦の話。今回の記事は三話の「西部戦線」で書いた範囲です。
https://ncode.syosetu.com/n1008ho/

 昔作った動画。アカウント名は「孫覇」です。


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