短編小説「B〇oooing! Doooing!」
【精神医学研究者 油羽牟益郎教授の談話】
「・・・つまり、現代のソーシャルネットワークサービスの繁栄が、人々の承認欲求を過剰に刺激し、膨らみ過ぎた承認欲求が空気を入れ過ぎた風船のように破裂した時に、『それ』が起こるのです。私はそれを『ZONE B』と呼んでいます・・・。」
残念ながら、この油羽牟教授の談話は、マスコミに取り上げられることなく、やがて忘れ去らていった。
そこには、マスコミ各社の思惑が絡んでいたのかも知れない・・・。
どこからか、「見えない手」が伸びてきたのかも知れない・・・。
どちらにしても、この男には関係がなかっただろう。
自他共に認める「インプレゾンビ」だ。
「ZONE B」になるまでもなく、「すでにゾンビ」なのだ。
今日もせっせと、インプ稼ぎに余念がない。
絵文字だけでの返信やパクリプ・パクツイはもちろん、自分でデマを流すことも積極的に行っていた。
「お、いいスキャンダル。絡んでやれ」
「落ち込んでやがる。煽ってやれ」
「こいつ、調子乗ってんな。デマ流してやれ」
こうして着々と世間の大半から拒絶され、罵られていると、不思議なことに「コアなフォロワー」も現れる。
絶え間ないブーイングの合間に、礼賛のコメントもあるのだ。
それはごくごく少数だったが、「0」になることはなかった。
ある日、その中にとびっきりの美女を見つけた。
褐色の肌、吸い込まれそうな大きな瞳、そして意味ありげな微笑み。
どこから見ても、日本人ではなさそうだ。
書き込みは日本語で、それなりに堪能なところを見ると、日本で生まれ育ったということなのだろうか。溢れ出る好意がコメントからあからさまに読み取れた。
「コイツを彼女にしたら、さぞかし反感を買うだろうな・・・w」
それだけのために、告白して、彼女にした。
コメントは荒れに荒れた!
彼女を心配するような書き込みもあったが、彼女自らがその行為を罵って、さらに相手を煽っている!!
いいねぇ、やるじゃん!
だが、それもそう長くは続かなかった。
世間は飽きるのが早い。
そういうワケで、次の手を打つ。
相手の好意に付け込んで、集められるだけ集めた彼女の情報を、まとめて曝してやった!!
案の定、コメントはまたまた大荒れになった。
犯罪だと騒ぎ出す奴までいた。
これだから、やめられない!!!
ふひひっ!
ふひーひっひっひっひっひ!!
笑いが止まらなかった。
やりやがった。
このままにすると思うなよ。
Dois-je laisser ma rancune de côté
「あ、おばあちゃん? どう、変わりない?? それでさ、今送ったヤツ、やっちゃって。・・・うん、いつも通りに。」
・・・さてと、あとはおばあちゃんに任せて、前祝いといきますか。
「すみませーーーん! 特上カルビ5人前と、チョレギサラダ3人前! あと生ビールとハイボール、どっちもピッチャーで!」
そうそう、忘れるところだった。
住所を確認しておかないと、ね・・・。
「あぁ、先生? いつものお願いします! 今送ったアカウントのヤツ。そう、ソイツです! わかったらメール下さい! それじゃ!」
「すみませーーーん! 生、まだですかーー? 先に持って来てー!」
・・・なんだろう、やたらと身体が熱い。
エアコンは16℃まで下げたのに、汗がどんどん溢れ出て来る。
・・・それに、やたらと身体がかゆい。
なにかのアレルギーだろうか・・・。
・・・な、なんだ、この皮膚の色・・・
ぐぢゅ。
う! うっわ! う、う、腕の・・・に、肉・・・が・・・・・・。
な、なんか・・・うま・・・そう・・・??
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
か・・・ゆ・・・。
・・・う・・・ま・・・。
「あ、おばあちゃん? ハロハロー! え? 上手くいった? ありがとう! うん、おじいちゃんに連絡入れておく! じゃ、またね!」
「あ、おじいちゃん? 久しぶりー! いきなりだけど、ZONE B情報だよ。〇〇市〇〇町の・・・ え? 大丈夫大丈夫! どうせ誰も聞く耳持たないだろうし、気にもしないだろうから! 前もそうだったじゃん。せっかく警告したのにね。みんな、目先の欲に眩んでるんだよ。とにかく、回収よろしくね! 研究続けて、早く『ZONE B計画』進めようよ! それにしても、SNS様々だね! うん、もう次のヤツも見つけてある!」
「インプレゾンビ」なんていう言葉ができた時は、とうとう計画がバレたのかと少しハラハラしたが、そんなことはなかった。
映画やTVドラマを作ったり、ゲームを作ったり、おじいちゃんがいろんなところでそれとなく匂わせてあげてるのに、誰も気が付かない・・・。
おじいちゃんは穏健派だけど、私とおばあちゃんは断じて進めるべきだと思ってる!
「全世界ゾンビ化計画」
着々と、進んでる。
ブードゥーの未来は、明るい!
B(V)oooinng! Doooing!
了。