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「ジョン・ドゥ ~deleted Parajumper~」

「shitt」
新兵ですら犯さないような初歩的ミスを犯し、俺はそう呟いた。

間取りすら不明の、古くて大きな農家に飛び込んだまでは良かったが、マヌケ揃いと思い込んでいたトラフィッカー人身取引者の中にも、そこそこ頭の切れる奴がいたらしい。

拳銃一丁グロック17でそいつらと戦いながら、いつの間にか地下室まで追い込まれてしまっていた。

出入口は狭い石階段のみ。
その一番下で、荒い呼吸を整えながら気配を探る。

建物の規模からして、ここには20名程度のトラフィッカーがいたに違いない。囚われていた女性たちの数から見ても、それ以下ではないだろう。

ここまで14人をUTF戦闘不能に追い込んだから、残りは6人というところか。

逃がした彼女たちが助けを呼んで戻って来るなんてことは、まず考えられない。あの恰好なら、この辺りではたとえ相手が警官でも襲われてしまうに違いない。

彼女たちも、それは理解しているだろう。もしかしたら、客としてここを訪れていたような警官もいるかも知れない。目を瞑る見返りに、金とは別に昔から求められる特典だ。特にこうしたフッカーテルモ違法売春宿なら、なおのこと。

残りが襲ってこないのは、時機を計っているのか、それとも援軍の到着を待っているのか。いずれにしても、時間は俺に不利にしか働かない。

米空軍のPJ(パラジャンパー空挺救難員)として少佐まで昇り詰め、単独で世界中のキナ臭い地域で救難活動に当たってきた俺が、ここまで追い込まれるとは。

もっとも、今回は軍隊時代にあったような緻密な計画も、豊富な戦闘資産もないのだから、こうなるのは半ば自明の理ではあったのだ。

もう一度、銃の弾倉を確かめる。残弾は5発と薬室に1発。
ライフルを手にした悪党6人と戦うには、些か心許ないが・・・。

俺は大きく息を吸い込み、身体に酸素を行き渡らせると、もはや足音も気にすることなく、石段を一気に駆け登った。


つづく。
(本文800字)



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