【氷色】#色見本帖
「色見本帖つくります」参加記事
三羽 烏 様 の企画参加記事となります。
【氷色】(こおりいろ)
それは、青にして青に非ず、白にして白に非ず。
無色透明でありながら、同時に周囲に溶け込む無限の色彩を持つ。
氷と水と光が作る「不思議な色」。
十万年に及ぶ「地球時間」と、8分20秒前の「過去光」が、刹那のすれ違いで目の前に作り出す「奇跡の色」でもある。
その奇跡の目撃者になった者は、生涯その光景を忘れることができずに、またこの場所を訪れたいと願いながら天国へ旅立つのだと言う。
だから、神様は魂を天国に連れて行く前に、もう一度この場所を通ることをお許し下さるらしい。
辿り着くまでの永遠とも思える辛く長い旅路に比べ、その場で景色を楽しめるのは、ほんの数分。
その数分の間にも、濃くなり、淡くなり、強くなり、弱くなる。
その変遷は、まるで南の海の水中から太陽を見上げた時の「揺らぎ」のよう。それが水の中よりも時間を掛け、かろうじて変化に気付けるほどにゆっくりと、眼前で繰り広げられる。
私の拙い言葉では、あの感動を伝えきることは到底できない。
いや、世に名高い文豪ですら、あの光景を適切に表現するのには相当苦労するに違いない。
大自然の前に、言葉など無力だ。
その場を訪れた全ての人がしばし言葉を失い、ただ茫然と立ち尽くすのみ。
「それが、氷色さ。」
ガイドの男性が現実に戻り、色彩の見事さを褒め称える声が鳴りやまない帰りの車内でそう言った。
「僕はあの色に憑りつかれて、とうとう仕事まで変えることになった!」
そう付け加えて、みんなを笑わせた。
アイスランド語で「魂の通り道」と名付けられた氷河洞窟の思い出。
あまりに長く、あまりに複雑で、カタカナで表記するのもためらわれる。
ここでも私は、無力だった。
氷語、恐るべし。