RJ436878を巡る、私の罪について

謹啓

 秋晴の折、貴方様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。近頃は、高窓から吹き込む風がすっかり涼しくなり、月こそ拝めませんが、秋の訪れを感じております。今年の中秋の名月は如何でしたでしょうか。

 さて、塀の中の私から突然に文が届いたことで、驚かせてしまいましたでしょうか。もしそうであれば、大変申し訳ございません。ですが、貴方様には「真実」をお伝えしたかったのです。いえ、潔白の訴えなどではございません。私は確かに罪を犯しました。恐らく、貴方様にとっては潔白の訴え以上に厄介なものとなってしまうでしょう。何せ、私はこの文を通じて告解がしたいのですから。少しでも不快に感じられましたら、読んでいただかなくとも結構です。




 私の父は、嘘に厳しい人でした。特に、自分を守るために吐いた嘘が一度露見すれば、それは激しく糾弾されました。当時はそんな父を非常に苦々しく思っていましたが、今となって思えば、私を正しい道に導くための愛の鞭だったのでしょう。感謝を伝えたいところですが、それを無碍にしてしまった今、素知らぬ顔で会いに行けるほど私も厚顔無恥ではありません。

 長々と身の上話をしてしまいました。どうもこういった文章は書き慣れないもので、つい不要なことまで書いてしまいます。おっと、これも不要でしょうか。
 ですが、私が嘘を戒められて育ったことは、私の罪に深く関わってくるところであるため、少しばかり紙幅を多めにとった次第です。

 早い話が、私の罪とは、つまるところ「嘘」なのです。

RJ436878

 何でしょう、これ。無知なる私が推察するに、何かの商品コードみたいですね。

 え?何を知ってるのかって?

 いえいえ。私は何も知りませんよ。貴方が知ってるんです。Go○gle先生。


閑話


 G○ogle先生にお聞きしたところ、どうやら同人音声作品のようです。私は何も知りませんが。

 内容としては、視聴者が少女と薄布を使った遊戯に興じる、といったもののようですね。私は何も知りませんが。

 その遊戯、その道ではそこそこ有名みたいですね。私は何も知

いつまで被害者面をしているんだい?
何も知らない?
拐かされたとでも主張する気なのかな?
その態度が気に入らないと言っているんだよ。
無知の知で鞭打ちを逃れようだなんて。
そんな言い訳で太刀打ちできる訳がないだろう。
はぁ、こんな稚拙な遣り口、見るに堪えないよ。

 ええ。知っていますとも。何でもは知りませんが、己のどうしようもない欲望のことくらいは知っています。嫌になるくらいには。

 私は、RJ436878を購入しました。はい、セールでしたので。

 買ったこと自体が罪であるなどとは、流石の貴方様でも仰いませんでしょう?クリエイターの皆様が心血等々を注ぎ込んだ作品です。存在自体が悪、などと仰るようでしたら、私は貴方様を心底軽蔑致します。

 兎に角、私はRJ436878を購入しました。ここまでは良いのです。問題はその先です。この作品は、性質上薄布があって始めて真価を発揮するのです。

 しかし、不幸なことに私は薄布の持ち合わせがございませんでした。絆創膏などの簡単な備えはありましたが、薄布のような使途の限定的なものを常備している家庭は少ないでしょう。私も、その多数派であった訳です。

 では、どうするか。作品本体は手元にあるのです。サンプルボイスも吟味いたしました。きっと、この作品を最大限に活用して遊戯を行えば、極上の幸福を感じられる。そんな確信すらありました。

 ならば、取るべき行動は一つでしょう。

薬局に行きます。

だから気に入った。

 行ったは良いものの、ここで私の脳裡に浮かぶ逡巡。成人男性が薬局で薄布だけを買う、という行為には、一定の意味合いが付与されるのではないか--。巡る思考。導き出される最適解。

 私は、薄布と共に医療用テープを購入しました。するとどうでしょう。私は、薄布だけを購入する不審成人男性から、皮膚に疾患のできた成人男性に成ったのです。

 テープは500円は下らなかったかと記憶しておりますが、極上の至りの必要経費と考えれば安いものでしょう。…………500円か。

 帰宅した私は、早速準備に取り掛かりました。シャワーにて身を清め、購入した薄布を開封。手頃なサイズにカットします。最後に、当然どちらの御家庭にも常備されている潤滑剤を取り出し、準備は万端。


 興り




    痺れ



                光

    解放







          「空」


 結果から申し上げますと、至りました。

 薄布による想像を絶する至極、あるいは死獄の感覚。それに加えて、来夢ふらん様演じる少女の御声の素晴らしいこと。敬語は一切崩さない。それでいて、此方を低俗な欲望に塗れ、被支配と蹂躙への欲動を抑えられない被虐性愛者として扱っていることは嫌というほどに伝わってくる声色、態度。

 私は、天の川を視ました。私の腹上を雄々しく、それでいて滔々と流れる天の川。私の織姫と彦星を隔てるには充分過ぎるものでした。


 天の川の治水というかつてない大事業を行いながら、ふと、己の犯した罪に気付きました。

 薄布を購入するにあたって、私はテープを併せて購入しました。これは、「」にあたるのではないか。誰への。まず、薬局の店員さん。彼女は、私を皮膚に炎症を起こした客として扱ったでしょう。そうであって欲しい。そうであって欲しいのですが、それではいけないのです。何故なら、実際には、潤滑剤に浸した薄布で特定の部位を擦り上げる変態成人男性なのですから。彼女が何らかの罪、例えば変態にあぶないものを売った罪とかに問われたらどうするつもりなのでしょう。

 さらには、世界すらも騙していると言えるでしょう。私の直後に医療用テープを切に求めている人が来店したとしたら?私の部屋の引き出しの奥で眠っている医療用テープが正しい働きをして、何処かで誰かを助けた可能性を、私が否定したのではないか?私が特に求めてもいない医療用テープを購入したことで、需要供給曲線の均衡が崩れ、市場の自動調整機能を弱めた可能性はないか?

 そして、私は他でもない「私自身」をも騙しているのです。

 自分自身がどうしようもない変態成人男性であると認識しながら、一般人の物差の中での生活に愚かにも憧れ、己を騙し続けてきたのではないでしょうか。

 その結果がこれです。その日のうちに自首しました。交番に「私は変態です」と申し出たら、3分くらい裏で話し合いが行われたのち、「まぁ、変態なら……」と逮捕されました。

 以上が私の告解です。自首による減刑を加味しても、終身刑は免れないでしょう。そこに不服は一切御座いません。しかし、虚しさを抑えきれず、筆を執った次第です。私の自己満足と身勝手をどうかお許しください。

 お詫びと言っては難ですが、先に触れた医療用テープはサイドチェストの下から2段目に仕舞ってあります。どうか、貴方様の遊戯にお役立てください。

謹白

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