ブラック・ジャックという世界

 皆さんは、ブラック・ジャックという作品はご存知でしょう。

図書館とか学校の図書室に行くと美味しんぼとか横光三国志に並んで、漫画だというのに置いてあるやつです。

手塚治虫という大作家の代表作のひとつにして、彼の最大のヒット作であるとも言えます。

以下、公式サイトより説明文引用。

無免許の天才外科医ブラック・ジャックが活躍する医学ドラマです。ブラック・ジャックは、天才的な外科手術の技術を持ち、死の危機にさらされた重症の患者を、いつも奇跡的に助けます。しかしその代価として、いつも莫大な代金を請求するのです。そのため、医学界では、その存在すらも否定されています。人里離れた荒野の診療所に、自ら命を助けた助手のピノコとともに、ひっそりと暮らすブラック・ジャック。彼の元には、今日も、あらゆる医者から見放された患者たちが、最後の望みを託してやってくるのです。https://tezukaosamu.net/jp/manga/438.html


以上、引用ここまで。

無免許でありながら天才的な外科手術の腕を持ち、時には専門外の治療すら完璧にこなすことすらあるブラック・ジャック。そんな彼とクランケ、時としてそれは友人や近親者との関わりを通じて「命」を描こうとする作品…それがブラック・ジャックです。

内容としては、手塚自身の医療への知識を基に時には漫画的な嘘や誇張を交え、医療を描き「ヒト」を描き、「生命」を描くものです。

しかしながら、医療を題材としながらどこか医療に対する諦観や医療の限界が世界観の根底に強烈な存在感と共に横たわっている作品でもあります。特に人工心肺や義肢、脳に機械を埋め込み制御する(これは封印作品ですが)といった人体を人工物に置き換える事や延命治療等の生命そのものへの干渉には強い反対や忌避感があるように思います。

「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね」「きみは人間をロボットに改造する気か」と主人公ブラック・ジャックの恩師本間丈太郎は彼に語ります。有名な戸隠先生も「医療の発達で生き物が増えた結果縮みでもしないと生き残らないと神は言っている」という主旨の言葉を残して息絶えます。宿敵ドクター・キリコも「死ぬやつは自然に死ぬ、それを生き延びさせようなんて無駄だ」とブラック・ジャックを嘲笑います。

しかしそれでもブラック・ジャックは医療を、生命の生きようとする意思を信じてメスをふるい続けようとするのです。

作画…というか描写の面では手塚作品特有のスターシステムをふんだんに使った手塚オールスターズ、とも言うべき絵面に仕上がっています。

お恥ずかしい話、手塚作品全般に詳しいわけではないので詳細に全てがわかるわけではないのですが…そういう情報をまとめてくださっているありがたいWebサイトなぞを見ればブラック・ジャックとピノコを除く殆どのキャラクターがスターシステムによるキャラだとわかります。先程挙げた、本間丈太郎というこの作品の価値観の根本になるキャラも「猿田」という他作品初出のキャラの造形が使われています。

そして何より私個人として好きなのは、ブラック・ジャックという男が非常に表情豊かで人間臭いヤツなところで、それに伴って作品全体がシリアス一辺倒にならないところなんです。

顔はツギハギでしかも皮膚の色は一部違う(実際には少し色が濃い、漫画等では水色で描かれる)、一見無愛想で年がら年中黒スーツに黒コートの半分白髪…とどこまでも威圧的な見た目をしてて、下手したらキリコなんかより余程死神のように見える彼。

しかも幼少期には通常の人間では計り知れない程の苦難を味わい大概のことでは動じない…動じないんですが…。

実際には怒り、笑い、悶え苦しみ、高いものも食べるけど庶民舌、時にはめちゃくちゃに悔しがったり悪態をつく等、物凄く感情豊かなんです。

ここばかりは手塚治虫という漫画家の絵の上手さに白旗を振り回すほかありません。

彼がそれだけ表情を顔に出して叫びわめき、時には怒りのあまり顔がヒョウタンツギ(手塚作品に出てくるツギハギだらけの豚鼻つきの謎の物体、キノコらしい)になっても、その時のシリアスな空気が崩れることが無いんだす。

だってヒョウタンツギってこれですよ。

画像1

いきなりブラック・ジャック先生の顔がこれになっちゃうんです、しかもそのシーンは先程例に上げた戸隠先生が今まさに死のうかというところでブラック・ジャックの作った血清を使う事を拒んだ時のブラック・ジャックのリアクションとしてなんです。

それで作品の流れが崩れず、ちゃんと「ブラック・ジャックの感情の爆発が描かれている」というのはちょっとやそっとの事でできるものでは無いです。漫画の神様の異名は伊達ではないです。

そしてこの作品は所謂読み切り連載、オムニバス形式の一話完結が殆どですが、その全てが「患者が治ってめでたし」ではないのもご存知でしょう。

時には患者は助けられず死ぬし、助けてもその後死に、助けない方がよかった…なんてことすらあります。どうしても釈然としない、無力感のような余韻の残る話もあります。

言い古されたことを言えば、「だからこそいい」んです。命なんて生きることもあれば死ぬこともあるのが当たり前で、そこに少しでも爪を立てて抗おうとするのが我らがブラック・ジャック先生なのですから…。

とまぁ、作品についてはこのくらいでいいでしょう。あとよく言われるのは封印作品が多い(復刊ドットコムの大全集段階で3話/うち1話は改稿再録、1話は該当単行本の初期近く分の版にて収録)とか、単行本の種類が異様に多いとか…その辺は割愛します。詳しい解説サイトが他にいっぱいあるので。

ブラック・ジャックを何故いきなり取り上げたか、それはこれから書き綴っていく感想がブラック・ジャックの…それもOVA版のものだからです。軽い導入というわけですね。

次回ではOVAとはなんぞやとか、どんな作品なのかとか書いていきます。

お読みいただいてありがとうございました、また次の記事で。


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