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坂月さかな『「星旅少年Planetarium ghost travel』

坂月さかな『「星旅少年Planetarium ghost travel』①②③(パイインターナショナル)。宝島社『このマンガがすごい!2023』オンナ編5位。電子書籍版①はこちら(電子版限定特典付き)↓
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 ある宇宙、人は「トビアスの木」の毒によって「覚めない眠り」につきはじめていた。そして、ほとんどの住民が眠ってしまった星は「まどろみの星」と呼ばれた。これは、「まどろみの星」を訪ね、残された文化を記録・保存する、プラネタリウム・ゴースト・トラベル社(通称PGT社) 星旅人・登録ナンバー303の物語。訪れた星々でPGT社で、303が交流する人やモノ、出会いと別れ、そして「トビアスの木」と自身の謎(ここまで公式解説)。
 人は本や映像で旅することができる。自分はますむらひろし「アタゴオル物語」(漫画)で猫界にトリップできた。家族はたむらしげる「ファンタスマゴリア」(ゲーム)で、惑星間を遊泳できた。それ以来、久しぶりの異世界旅行ができた。ファンタジーには、言語、組織、ルールがしっかり確立していることが必要。例えば「星旅少年」の物語では、図書分類記号や居住空間の図示が整然と備わっている。だからこそ世界の輪郭がしっかりと知覚できる。これはトールキン「指輪物語」と同じ。
 そして「青が沁みるSFファンタジー」と謳われるに相応しい四次元空間。①②までは303の剽軽さと優しさが、世界をボーイズラブ的に優しく包む。ククロナ、ピピ、ノキ、ジリ(505)、スミヒト。みんなお互いを労わり、大切に思っていて情が通っている。しかし心の底には寂しさと孤独を抱えている。その中心にいるのが303。しかし③になると物語は急展開。そもそも303は何故そう呼ばれているの? そして彼の兄とはいったい何者なのか。「トビアスの木」は青い星=地球人類の絶滅を意味しているのか。他の星の人々は、有毒かつ眠りに誘う樹にどう向かい合ってゆくべきなのか。一種の哲学的思想を帯びて、世界の秘密が開陳されてゆく。その果実は決して甘くはない。これを単純に漫画と呼んでいいのか躊躇する奥行きである。いったい④に向けて、物語はどう展開してゆくのか(まだまだ続く予定と聞いている)。

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