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河井克行「獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日」(飛鳥新社)

河井克行「獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日」(飛鳥新社)。
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書影


 元法務大臣 河井克行 出所後初の書籍。全てを失った元政治家は、なぜ獄中で希望を見失わなかったのか。涙なくしては読めない魂の記録(以上、公式解説)。
◆河井克行(かわい・かつゆき)氏の略歴
1963年、広島県生まれ。1996年に衆議院選挙に初当選(広島3区)し、当選7回。安倍晋三総理の首脳外交の腹心として仕え、第4次安倍内閣では法務大臣を務めた。妻である河井案里氏への投票を依頼するために、お金を配った選挙違反事件で実刑判決を受けた。2021年から服役していたが、2023年11月に仮釈放された。

河井克行氏
法務省

ニュースでこの本のことを知った。法務大臣の刑務所生活ということで「月刊Hanada」に獄中日記を連載して、単行本化された。刑務所を管轄していた法務大臣としての知識と、現実の服役生活にどれだけギャップがあったかの実感がリアルである。服役者はどう不安で、何を求めているのか。刑務官における繁忙の実態。刑務所の設備や規則はどう改善すべきか。おそらくこの人にしかわからない智恵や体験であったろう。前科のある政治家であるが、政治家引退宣言は撤回して、今こそ改めて法務大臣の席に着いて欲しい。2年間の服役期間中に、ずいぶんと自分自身の過去への大いなる反省があった。部下への暴言や家庭の放置などを省みている。仕事をしていると、上ばかり見ている時期がある。上昇志向と仕事の充実感から、自身が見えなくなっていた経験は自分にもある。
 失意の刑務所生活における、妻の案里氏の献身ぶりは感動的である。この方はもともと河井克行氏が選挙で落選した期間に結婚した。夫の過失で自らが不本意に巻き込まれた選挙違反事件でも、夫を恨まず見限らなかった。常に夫を励まし、本を差し入れて勉学に誘う姿は、まさに賢妻の鑑である。不遇の時期というのは、時間はいくらでもあるので読書に限る(自分も人生の浮き沈みが激しかったたので体験)。河井克行氏は安倍晋三総理の外交において重要な役割を果たし、密接な関係であった。このことで連想するのは安倍好恵夫人のこと。安倍晋三総理の在任中に、芸能人たちと派手な生活を繰り広げて、スキャンダラスな人だと思っていた。しかし安倍晋三総理の逝去の後の憔悴ぶりと、進退における身の振り方を見て感心した。亡き夫への国会悼辞を依頼した野田佳彦氏の話を傍聴している、凛とした姿は見ていて思わず涙した。それは安倍晋三総理が、いかに家庭人として優れていたかを如実に表していた。河井案里氏の場合も、夫婦の危機に際した立ち居振る舞いが同じく素晴らしかった。

河井案里氏

 大学時代のゼミの先生である磯部力教授は、われわれ学生に「人生には二つの重要な選択肢がある。その一つは職業で、もう一つは結婚である」と語った。当たり前と言えば当たり前であるが、この本を読むと、そのどちらも人生における重要さがヒシヒシと伝わる。

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