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深谷忠記「殺人者(ソウル・マーダー)」

深谷忠記「殺人者(ソウル・マーダー)」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓

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 1990年には1,101件だったのが、2009年には44,211件と40倍に。これは児童相談所での児童虐待相談対応件数である。その後、2021年には20万件を超えて200倍となっている。一方で配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は2002年度に36,000件だったのが、2020年度には182,000件に達している。これらの数字はミステリー評論家・村上貴史氏によって解説で明らかにされている。

 物語は二つの視点から構成される。一つはある少女の心の声。それは自らを脅かす狼への怖れとその抹消を願う心象風景。夢魔にうなされるようなその声は切実で、追い詰められている。もう一つは現実の世界で苦しむ母子たち。夫や父親から振るわれる暴力。特に女の子の場合には性的暴力も加えられる。DVにさらされる子供たちを救おうと尽力する児童相談所や児童養護施設の職員や学校の先生たち。中には自らもDVを体験して、この仕事を志願した人々がいる。

 「子供の虐待」をキーワードに起こる連続殺人事件。その現場には、いつも「殺人者には死を!」の文字が残される。このメッセージの意味は何か? 殺人への動機は何か? 実行者や協力者はいるのか? 迷宮入りした事件。それでも捜査協力者=重要容疑者という構図で、徐々に引き絞られてゆく捜査網。消去法的にたどり着いた結論を裏切るエンディング。果たして下された正義の鉄槌は正しかったのか、狂気の果てなのか。そして物語が明かした真犯人は、本当の意味でこれが真犯人と呼べるのか? 敢えてタイトルを『ソウル・マーダー』と読ませた著者の意図を噛み締める。

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