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六道慧「公儀鬼役御膳帳 ゆずり葉〈新装版〉」(徳間文庫)

六道慧「公儀鬼役御膳帳 ゆずり葉〈新装版〉」(徳間文庫)。「公儀鬼役御膳帳」シリーズも第4作。第5作を以って完結との、著者のあとがき。12月の次巻刊行が待たれる。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CMQ3F9BQ/
 「鬼の舌」という、類い稀なる味覚の才を持つ木藤隼之助。父である木藤多聞から、将軍家毒味役の御膳奉行五家の頭として「鬼役」という名誉あるお役目を引き継ぐ。そして最愛の婚約者である波瑠との婚儀も決まり、人生の幸せの絶頂にいた。一方で異母兄である弥一郎は失意に打ちのめされて、屋敷から出奔失踪する。父・多聞から隼之助が新たに指示を受けた潜入先は「八組造醬油仲間」というギルドに属しない、新興の造醤油屋「加納屋」。ここで白井藩の不審な動きを木藤隼之助は嗅ぎとる。大御所である徳川家斉、その子である将軍の家慶、幕府転覆を目論む島津藩。新たな鬼役として隼之助は、3つの勢力の拮抗と暗躍に、大御所からの差配の下で機知を以って杭を打つ。
 幕末ミステリーとしての本題を縦の糸とすると、木藤家における後継者問題の軋轢が横の糸である。選ばれた者と、そうでない者。そこに生じた亀裂は、家族と言えども癒せない心の傷である。それどころか激しい憎悪すら生む。しかしそのような葛藤の中で、いかに和を保つか。選び選ばれた側も最善を尽くそうとする。それでも結局のところ、もはやこれ以上はないと思わせる、木藤家に訪れた不幸の連鎖。本書のタイトルは「ゆずり葉」。これは波瑠の提案した「優曇華餅」なる菓子に使う柏の葉を指している。柏の葉は「若葉が育つのを確かめて、散る」という締め括りのことばが、美しくも儚い。


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