姉小路祐「見当たり捜査25時 大阪府警通天閣署分室」
姉小路祐「見当たり捜査25時 大阪府警通天閣署分室」。電子復刻第56弾。「見当たり捜査」とは犯人の写真を覚えて、街路で逃亡者を捕まえる地道な捜査。大輔は、地味ながら自らの仕事に矜持を持っていた。職場結婚した姫子は生活指導安全班で、婦人警官コントで防犯意識を訴える仕事。そんな二人が関わることとなった事件。それは、熱海の老舗「喜多野」を食い物にせんとする倒産屋・角野。従弟の乾伴雄は、従兄の栄一郎を守るために角野を刺殺する。大阪に逃亡して捕まった乾で、犯行も認めていた。しかし法廷で乾は突然の犯行否認。実際の犯人は従兄の栄一郎だったと証言を翻す。ここから審理は二転三転。法律の盲点を突いた被告と警察の虚々実々の駆け引きが始まる。
最後の最後まで事件の真相は計りかねた。事件の設定そのものに、読み手を混乱させる仕掛けが周到に用意されている。そして事件関係者の織りなす、込み入った事情。まさに人生いろいろで、その経緯そのものがドラマである。そして足を使った「見当たり捜査」の努力と「逃げ得は許さない」という心意気。主人公の浦石夫妻の、大阪のおっさんおばさんチックなコンビの息の合った姿も、ユーモラスで微笑ましい。警察小説でありながら、法廷ミステリーでもある本作品は、心踊る読み応えの秀作である。
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