常幸龍の引退、学生横綱のスターデビューからケガとの闘いの力士人生
元小結の常幸龍が34歳で引退。膝をケガしてから、ずっと我慢の辛い日々が続いたが、医師から人工関節になると言われて、終に現役生活を断念。本名は佐久間貴之、埼玉栄高校時代に世界ジュニア相撲選手権で優勝、日大在学中に学生横綱のタイトルを獲得。誰もが仰ぎ見る相撲エリートだった。部屋付き親方だった木瀬親方の内弟子として北の湖部屋に入門。2011年の初土俵から27連勝。十両に史上一位のスピード出世と、まさに破竹の勢いだった。木瀬親方が木瀬部屋として独立後は木瀬部屋に移籍。入幕後は二度も十両に陥落したが、2014年秋場所には三役昇進、翌年初場所には日馬富士から金星を挙げた。しかしその頃から、何度も大怪我に悩まされた。2016年には2場所の休場を経て、十両から三段目まで陥落。それでも2018年に三役力士として、初の三段目からの関取復帰を果たした。
常幸龍の素晴らしさは二つある。1️⃣度重なるケガを乗り越えて力士生活を続けてきたこと。特に三段目からの関取復帰は執念のなせる結果。関取復帰以降も幕下に再度陥落したが、再々復帰を目指して不屈の精神で相撲を取り続けた。家族思いの好人物でもあった(奥さまは夫を叱咤激励するタイプのようだった)。2️⃣今日の木瀬部屋の隆盛のきっかけを作ったこと。現在の木瀬部屋には現役で宇良、徳勝龍、志摩ノ海、英乃海、明瀬山、金峰山など最多の関取経験者がおり、引退した力士でも臥牙丸など多数の関取がいる。同期同部屋の大成龍(高卒なので4歳下)が幕下全勝優勝で、関取復帰に近づいたことは、常幸龍の引退に花を添えた。木瀬部屋は非常に自由闊達な雰囲気の部屋と聞くので、おそらく木瀬親方に人徳があるのだろう。そんな木瀬部屋の魁となったのが常幸龍であった。
引退後は日本相撲協会に残らないとのこと。先日の松鳳山引退の時も思ったが、角界に長く貢献した力士が最近では親方株取得の枠がなく、角界を去らねばならないのが残念。引退会見で常幸龍が流した涙は、自らの力士人生の臥薪嘗胆と、協会に残れなかった悔しさと両方だろう。常幸龍は連れ合いが大ファンで、常に動向を気にしていた力士。心から『お疲れ様』と言いたい。