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六道慧「警視庁特集詐欺追跡班サイレント・ポイズン」

六道慧「警視庁特殊詐欺追跡班サイレント・ポイズン」(徳間文庫)。
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 知能犯・詐欺犯を管轄する捜査2課の仲村健吾課長の下で、警視庁特殊詐欺特別班は全員が女性による4人編成。本郷伊都美警視・39歳をチーフとして、他メンバーは全て23歳で片桐冴子が実質のチームリーダーで、小野千紘と喜多川春菜でチームを構成する。忘れていた、それにクロノと呼ばれるAIロボット。守備範囲も広く、マトリ(厚生省麻薬取締部)と連携した麻薬捜査、若い女性を食い物にするオーディション商法、和牛精液をブランド牛と詐称しての不正売買と本書のタイトルともなった無差別テロ。さらには種苗法の廃止に伴う、種子販売の投資を狙った拉致事件にまで発展。そしてこれら事件の鍵を握る薬売人の深澤将夫を泳がせ、家畜人工授精師の伴野辰治を追い、オーディション商法や取り込み詐欺に精を出す利根ファミリーに潜入し、それら全てを取り仕切る「天下人」とは誰かを解明せんとす。
 世の中には悪い奴らが跳梁跋扈している。奴らは儲かることなら、法を犯してでも、ありとあらゆる分野に手を拡げる。時には人の命ですら脅かす。そして社会の崩壊を嘲笑うように、目先の利益だけを貪る。そんな無法者たちを、追い詰める特殊詐欺追跡班。追う側も手段を選ばない。特殊メイクによる変装で囮捜査も行う美貌の特殊部隊。物語の前半は、冴子・千紘・春菜のトリオの遠慮のないやりとりに、読んでいて笑いが堪えられない。しかし3人の親友である渡辺茉林が誘拐されるあたりから、物語は緊迫の度を加えて、読んでいても笑っていられなくなる。そこで活躍するのが生物学に詳しい本郷警視。動植物に関する専門知識を駆使して、悪党どもの企みを解明してゆく。主人公の冴子と折り合いが悪い父親の佐古光晴課長の、娘を思いやる気持ちも、暗に伝わってくる。最後に登場する特殊詐欺追跡班の支援者である細川雄二警視正の登場で、追跡班の3人が殉職した上條麗子警視と一柳清香検屍官の愛弟子であったことが披露される。エンディングは解決したような、しないような、含みを持たせた幕切れ。愛すべき警視と三人娘たちの、次の活躍が期待される。

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