金曜ロードショー「千と千尋の神隠し」
正月の金曜ロードショーで「千と千尋の神隠し」を放映。映画館やテレビで、かれこれ10回くらいは観ただろう。何度観てもいい。
興行成績も日本最高だった映画。試練に直面した千尋(千)の冒険と成長が描かれている。千尋の表情が幼く至らなかったのが、どんどん肝が据わって、凛とした姿に大人びてゆく。その健気さと深い愛は、涙なくして観ることはできない。メッセージ性としては「風の谷のナウシカ」には及ばないかもしれないが、ジブリ映画の造形美としても最高峰だろう。何より好きなのが、千(千尋)がカオナシと一緒に銭婆のところに行くために、水上を走る路面電車に乗る美しいシーン。画像が立体的であるところが魅力。たむらしげる先生の絵本に相通ずるものがある。宮崎駿監督の爛熟期であろう。これ以降の作品には、本作を超えるパワーやわかりやすさを感じ得なかった。
物語のもう1人の主人公であるハク。正体は龍神「ニギハヤミコハクヌシ」と映画後半で明らかにされている。日本神話に登場する「ニギハヤヒ(邇芸速日命)」」という空の神だそうだ。最後に自分の名前を取り戻すところに「ゲド戦記」の影響が見えるところは、宮崎駿・吾郎親子に共通項らしい。一説には、ハクは千尋の兄という説もある。冒頭の千尋とハクは恋愛関係のようにも見えたが、そうとなると実際には兄妹愛だったようだ。そのフェイクも、宮崎駿監督らしい思わせぶりな仕掛け。
その他キャラクター。個性豊かな化け物の大群が「ゲゲゲの鬼太郎」みたいで楽しい。どいつもこいつも欲深で、それでいて憎めない。カオナシは連れ合いお気に入りのキャラだが、人間の欲望の象徴とされている。誰にしも内側にカオナシがいる。寂しそうで、愛に飢えているところが痛い。千尋の関心を惹くために金💰をばら撒くところが、物悲しい。銭婆に救われたシーンに、心に温かいものが灯った。千尋の両親も、欲望に憑かれて、未知の土地で食物を貪り食べてしまって豚になる浅ましさは、カオナシ顔負け。今の飽食人類を痛烈に風刺しているのかもしれない。カマ爺は優しくて素敵。異形にして無愛想だが、慈愛に溢れている。そして湯婆婆が姿形も性格も強烈。苛烈なようでいて、仕事を教える親心も併せ持っていた。まさに夏木マリの怪演だった。坊もユニークかつ笑えるキャラだった。神木隆之介さんは「ゴジラ-1.0」だけでなく、ここでも好演。
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