日本のベンチャー企業が上手くいかない理由
10月13日の東京都立大学同窓会の勉強会「八雲サロン」は、Spider Labsの大月聡子社長を講師に迎えた。この講師の特筆すべきは、大学在学中(それも物理)に起業して、現在は30代半ばにして三児の母親でありながら、会社を軌道に乗せた実績。話しを聞くと「軌道に乗せた」どころではなく、時価総額30数億円の会社の株を夫婦で8割握っているということで、もはや社会的成功者の部類にカテゴライズされる。Spider Labsは「Spider AF」というセキュリティソフトの販促を主たる業務としている。このソフトはウェブサイトやアプリに攻撃を仕掛けてくる反社勢力や競合他社の動きを察知して対策を講じることになる。これをアドフラウドと呼ぶ。例えばクリック課金制のリスティング広告に天文学的なクリックをかけて競合企業の広告予算を消化せしめるなどのアタック。しかも百舌鳥のようなヤドカリ方式で善意の第三者を装って仕掛けてくる。サイバーアタックの危機が常態化している現代で「Spider AF」は重宝がられて、錚々たる大企業が採用しており、自分の所属していた企業も採用している。
この方は「Spider AF」の分析ロジックを「よくわからない」と言う。しかし本当はわかっているはず。この方はわかっていないふりをしながら、わかっている。放埒なふりをして礼を踏む。言い方が悪いかもしれないけど、馬鹿なふりした天才である。似たような印象を持つ人はエンゼルスの大谷翔平選手である。物理は数式の世界だから、宇宙的な多変量解析も生み出された。そしてそのようなプログラミングを実現できる逸材が、彼女を慕ってついてくる。資本金50万円の時代に5人の社員を雇う豪胆さ。そして大学OBのオフィスに間借りさせてもらう可愛げ。「知らないからできた」と言うところが魅力である。そして最も感心したのは「八雲サロン」出席者からの「日本でベンチャー企業が育たない理由は?」と訊かれて「日本しか見ていないから」という回答。「日本という人口が減っている縮小傾向の市場しか見ていない」からと言う。彼女の結婚した相手はポルトガル人。だから支社はリスボンに置く。ポルトガルの人件費は日本の7〜8割で、採用はGAFAと競合しないからと言う。だからライバルはイスラエルや韓国と言う。恐れ入った慧眼。
https://spideraf.com/