香納諒一「噛む犬 K・S・P」
香納諒一「噛む犬 K・S・P」(徳間文庫)。シリーズ第3弾の電子書籍版はこちら↓
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新宿高層ビル街で、とんでもない事件が起きた。ビルの1階の植え込みで白骨死体が発見されたのだ。しかも2年近く長き間、誰にも気づかれないで発見されなかった遺体は、失踪していた警視庁第二課の女性刑事・溝端悠衣。おまけに彼女は、新宿K・S・P(警視庁歌舞伎町特別分署)村井貴里子の入署時の指導教官であった。飛び降り自殺として扱われようとした事件だったが、村井貴里子は『尊敬する先輩警官であった溝端悠衣は、自殺などする人ではない』との信念から、殺人事件として捜査を始める。その結果、溝端悠衣は迷宮入りした轢き逃げ事件を単独捜査していたことが判明。さらに彼女は妊娠数ヶ月で胎児の骨格を宿しており、複数の男性と交際していたことも明らかになる。調べれば調べるほど、新たな疑惑の糸が次々と現れて錯綜してゆく。やがて捜査は思いもつかない方向に流れてゆく。続々と現れる強かな悪党たち。悲しい過去や激しい葛藤を経た被害者たち。事件の連鎖の中で、哀切な人間ドラマの数々が繰り広げられる。
「K・S・P」シリーズの魅力は、警察という厳然とした組織社会の縦の糸と、専門職としての刑事たちの人間味の横の糸の相剋である。主人公である村井貴里子や沖幹次郎たちは、常に警察内部の不祥事隠蔽、権力をめぐる暗闘、政界との闇資金ルートなど、格上の障害と戦い続けている。このような高いハードルをものともしないモチベーションは、犯罪を憎み、被害者を出すまいとする現場の矜持に保たれている。そこがタイトル『噛む犬』の所以だ。その孤独な戦いを支えているのが、警察の使命で結ばれたチームワークだ。妬み、嫉み、足を引っ張り合っても、最後はチーム・ワンである。その中でも、村井貴里子と沖幹次郎の間に流れる仄かな恋バナは、シリーズ唯一の小さな暖流。