井川香四郎「洗い屋十兵衛 恋しのぶ」
井川香四郎「洗い屋十兵衛江戸日和 恋しのぶ」。洗い屋十兵衛シリーズ第2巻。4つの短編を収録。電子復刻第36弾。
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①「淋しい金魚」は、島抜けした新八に狙われて安否が気遣われるお松親娘。娘のお春は病身で、明日をも知れぬ命。お松に人生の洗い直しを頼まれた十兵衛だが、お松の願いは思ってもみないことだった。人生に運不運はつきものだが、真心あれば互いに通じているものだと、心に染みる。
②「恋しのぶ」で出会った一文字龍拓は見目麗しい刀鍛冶であった。小田原藩で名高い銘刀であるが、手にした者が人斬りに狂う妖刀という噂もあった。ならず者に奪われた名刀を探す途中で発覚した、藩内の陰謀。十兵衛も、その罠の中に誘い込まれる。うまくやったつもりでも、悪行には必ず報いがある。
③「夏の鯉のぼり」は、江戸時代の児童文学「赤本」の主人公であるキツネ小僧を慕うガキ大将のカン坊が、物語の作者である花山策伝を訪ねる。しかし策伝の生活は、美しい童話の作風とは、打って変わって荒れ果てた暮らしだった。元々は幕府勘定所の能吏だった彼が、どういう理由で世捨て人となったのか。カン坊の素直な心が、読んで胸を打つ。
④「夢つむぎ」で、十兵衛に「女房を洗ってやって欲しい」と頼んできた、歌舞伎の女形である沢島染之丞。しかし調べれば調べるほど、身勝手な染之丞。十兵衛の周囲は、手出しに反対。しかし十兵衛は、気の毒な女房を密かに助ける。「誰を洗い直して、誰を洗い直すべきでないか」。洗い屋としてチーム内で意見が割れてしまう。