原泰久「キングダム」70巻、韓非子の巻
原恭久「キングダム」70巻(集英社)を読了。電子書籍版はこちら↓
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趙国・宜安で桓騎軍が李牧に大敗して全滅。ショックを隠せない秦だったが、李信(飛信)は国王・嬴政に呼び出されて、法家・韓非子を招くために使者として六大将軍・騰と共に韓の王都・新鄭へ赴く。
執拗に信に「人の本質とは何だ?」と問う韓非子。法家として性善説と性悪説の間に揺れていたようだ。そして嬴政と刎頚の友である信を通して、嬴政の中華統一を見定めようとしていた。頭で考えるタイプではない信の、心に感じたままの答え。それが韓非子を動かした。幾多の修羅場を踏んできた信ならではの、信でこその答えであった。人の心を動かせる信の素直な成長ぶりに、思わず目を細めたくなる。韓非子の秦国訪問は、予期せぬ結末が生じる。ありとあらゆるアクシデントは、中華七国の権謀術策による。縺れた糸は、もはや何が真実であるのかさえわからない。唯一の心温まるシーンは、韓非子とのライバルであった秦の宰相・李斯との友情であった。
終盤は尾平と東美の結婚式。信や尾平の郷里である城戸村で行われた。かつては悪さばかりしていた貧しい悪ガキたちの凱旋帰国。そこで遂に信は「キングダム」読者がずっと感じていたモヤモヤに決着をつける。そうそう五代裕作だって、上杉達也だって、最後は逡巡という河を飛び越えたのだから。「キングダム」第70巻は、そんな信に再び惚れ直す巻である。
最後に「キングダム」は第70巻の刊行で1億部を超えたそうだ。これは紙+電子版で、海外版は含まない。つまり1巻あたりほぼ150万部。どんなにこの作品が多くの人に愛されてきたかを数字が実証する。実際読んでみて、どんな小説よりも人生の示唆に富んでいる。そしてどの巻を通しても、より大きな感動に包まれる。このような作品に出会えた著者も読者も幸せである。