出版流通の息の根を止めたのは「再販売価格維持制度」ではないのか?
週刊東洋経済12/2号が、出版業界の耳目を集めていた。第1特集は「外国人材が来ない!」。しかし注目は第2特集「CCC平成のエンタメ王が陥った窮地」。柱記事は3本。
1️⃣〔インタビュー]カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長兼COO 高橋誉則
2️⃣さらばTポイント 栄華と没落の20年
3️⃣カリスマ創業者 増田宗昭の知られざる素顔
まだ当事者に近い立場ので、あまりあけすけに書けないが、TSUTAYAがここ5年余りで500軒減ったというのは衝撃的なニュース。ここのところ毎週のようにTSUTAYA閉店のニュースを目にしていたが、累積という観点から報じられているのは斬新だった。おそらく最盛期の2/3くらいの軒数になっているのではないだろうか。ここ数年の大型出店の大半は「蔦屋書店」だった。また出店の大多数はTSUTAYAだった。つまり出版業界にとっては、もはや新規出店の担い手がいなくなったということを意味している。また身の回りの小売チェーンがTポイントからdポイントや楽天ポイントに移行していることも、生活の実感として感じていた。
創業者の増田宗昭氏は、今までの人生、つまり日販にとって大きな存在であった。日販の故鶴田尚正社長が、生前に私の面前で才能を絶賛したのは、増田宗昭氏と三木谷浩史氏の二人だけだった。増田宗昭氏は、天才的なプレゼンテーターで、そのスピーチには心の底から心酔したものだった。だから増田宗昭氏が社長を退くということは、とてつもなくショックだった。江戸幕府にとっての徳川家康みたいな存在だったので。後任の社長が高橋誉則(やすのり)氏だったことは仰天した。だって彼は、みんなのヤスだったから。『こんな大きな十字架を背負って大丈夫?』と思ったが、既に1年半を立派にこなしている。打っている手も事業解体の如く大胆極まりない。パッケージメディアの流動化は、既に音楽業界から始まって、映像や出版の世界にも及んできた。レンタルフロアからシェアラウンジへの業態転換は「蔦屋書店」には通用しても、地方のTSUTAYAでも成功するのかどうかは未知の世界。TポイントのVポイント化は、東洋経済が言うようにCCCの貢献度がSMBCに試されるだろう。
今の自分が実感として感じていることが一つある。それは「再販売価格維持制度(再販)」つまり定価販売が、出版流通の息の根を止めたのではないかと。再販の対象外である電子書籍の販売において、販促のモチベーションは値引きである。値引きがあるからこそ、種々のフェアが打てる。読者はフェアを待って、一気買いしている。ちょうどブラック・フライデーみたいな動きを示す。しかし紙の本やCDは「再販売価格維持制度」の存在が、販売を硬直化させている。そもそもかつての東京国際ブックフェアだって、値引セールは集客に大いに寄与していた。そして八木書店が新古書本を扱っているのだから、値引きが市場を活性化させることは目に見えている。しかるに出版業界は、そこから目を逸らして、公正取引委員会を黒船として忌避してきた。今からでも遅くない。出版業界は「時限再販」とかチマチマしたことはやめて、自由価格制度を全面的に導入して、需要にカンフル剤を打つべきである。「再販の廃止で中小書店が潰れる」と言うのなら、各種キャンペーンを打てるボランタリーチェーンを組めばいい。それでこそ日書商連の出番ではないか。それにしても今の「東洋経済」って850円もするんだな。