花村萬月「笑う山崎」、愛と殺戮のページェント
花村萬月「笑う山崎」(祥伝社文庫)。電子書籍版はなく、紙版のみ↓
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ひどい目にたくさんあってきたか? 幻聴が起きたのかと思ってマリーは山崎を凝視した。冷酷無比の山崎が子持のフィリピン女性マリーを妻にした時、恐るべき運命がその幕を開けた…。極限の暴力と過剰なまでの愛を描く(以上、公式解説)。
このところ「サイコパス」がホラー漫画のテーマで、よく扱われている。サイコパスは共感、罪悪感、自責の念を欠き、浅薄で欠落した感情を示す。結果的に残虐な殺人シーンが満載となる。そういう意味で「笑う山崎」は戦慄の拷問シーンの博覧会である。妻娘に新幹線車内で狼藉した酔客の哀れな最期、取り調べした刑事をバーナーで炙り殺し、自分を襲撃した犯人の全身にハンダゴテで82箇所の穴を開けて殺害、素手の約束の決闘で銃殺、襲撃に部下を盾にする、液体の出口である口と陰茎を塞いで大量に酒を飲ませて蛙のように膨れた腹を踏みつける、死ぬ覚悟をした者に生きる希望を与えてから嬲り殺しにする、情夫を助ける手伝いをする女を睡眠薬で眠らせている間に男を惨殺。顔色一つ変えない山崎は、まさに外道の極致である。
解説の縄田一夫氏によれば、本作品のテーマは「愛」である。それも家族愛、先ずはヤクザ一家という疑似家族の愛。それが虚偽であるとわかっていても、徹底的に嘘を通す。そして鼻の骨が折れるまで殴った女を娶っての家族愛(娘付き)。そして家族以外の敵に対する無慈悲さ。主人公の山崎には無表情な不気味さと、人の心の急所を押さえた統率力というアンビバレンツな魅力がある。読みながら、新たなスプラッターを怖れながら、次の展開を心待ちにしている自分がいる。暴力という人間の根源に潜む本能に戦慄する。冒頭の短編「笑う山崎」から始まった8つの短編集。エンディングの父娘のシーンは、「東京ラブストーリー」の秋庭父娘のシーンを彷彿させた。