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フィクション「西京冬季オリンピック」女子フィギュアスケート

これはあくまでフィクションである。オリンピック大会も国、団体、登場人物、薬品も全く架空の存在である(尚、画像と本文は全く無関係)。西京オリンピック、女子フィギュアスケートにおけるルシアのカリエワ選手の疑惑。カリエワは禁止薬物であるトリメタジジムという強心剤の成分が検出されて、ドーピング検査に引っかかった。カリエワ選手は女子団体種目に出場していて、表彰式が延期になっている。カリエワ選手は彗星の如く登場した、4回転ジャンプをいとも簡単に跳べる実力者で、圧倒的な世界最高得点を記録していた。そのあまりの演技の卓抜さに、他の選手にとって「死神」と呼ばれた。WOCはオリンピック出場停止をカリエワ選手に求めたが、世界スポーツ裁判所は出場を認める裁定を下した。それはカリエワ選手が選手保護規定にある16歳未満であったこと、オリンピック開催期間に引っかかったドーピング検査結果ではなかったこと、出場停止が本人にとって大きなストレスを与えるからというのがその理由だった。WOCはこの裁定に従ったが、世界スポーツ裁判所の裁定は結果がハッキリするまでのあくまで暫定措置とした。そしてカリエワ選手が3位以内なら表彰式は延期とした。
 もし強心剤を飲ませたのが本当だったとしたら、それは恐ろしいこと。フィギュアスケートのフリー演技は体力の落ちる後半にジャンプを入れると高得点になる。ましてそれが人類史上初の女子4回転ジャンプなら採点にはとても有利となる。男子でもオリンピックで連覇した羽生弓弦選手でさえ、デビュー当時はフリー演技の後にへたり込むほどの体力を要する。それなのにカリエワ選手は息も切らさずに演技を終える。ルシアでは数々の優秀な女子フィギュア選手を輩出してきた。だがオリンピック以降の選手生命が続かない。何故なら薬漬けで身体がボロボロになるからだ。しかしカリエワ選手はそのような薬を飲まなくても卓抜できる才能を持った選手であった。
 西京オリンピック大会でのカリエワ選手の演技であるが、何度もジャンプの失敗があった。それはルシア選手団コーチからの「失敗しろ」という絶対的な指示があったからだ。カリエワ選手が3位以内に入ると、他のルシア女子選手2名の表彰台とフラワーセレモニーの機会が失われてしまうからだ。カリエワ選手は指示に従った。跳べるジャンプをわざと失敗してみせた。採点の結果は指示通りの4位だった。これで残るルシア2選手の表彰台は確保された。演技後思わずカリエワ選手は「これで表彰式は開催される」と言って、屈辱に顔を覆って泣いた。結局カリエワ選手はドーピング検査の結果を以って失格となった。カリエワ選手を薬漬けにして、カリエワ選手に演技の失敗を強いた選手団の女性コーチであるトゥトボリーゼもフィギュア界を永久追放となった。
 カリエワ選手は素顔も性格も愛らしい少女である。その後のカリエワ選手の動向は誰も知らない。彼女は競技フィギュアの世界を離れて、数年後に一般人となった彼女を愛する男性と結婚して幸せに暮らした。幸いにも子宝に恵まれたカリエワは、成長した愛娘とスケートリンクに行くことが人生の楽しみとなった。「お母さんはどうしてこんなにスケートが上手なの?」と問う娘。カリエワは「滑るのが好きなだけよ」と少し寂しげに微笑んで答えた。

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