努力の力士、琴恵光の引退を惜しむ
琴恵光(佐渡ヶ嶽部屋・32歳)が引退を発表。幕下に陥落していた。左膝関節の悪化で休場していた。最高位は東前頭4枚目、幕内在位29場所。今は平均体重160kgの幕内力士に比して、129kgは小兵の部類だった。宮崎県出身の筋肉隆々のイケメン力士で、女性から大人気だった。当初は網打ちが得意という粘りが身上であったが、逆に言えばケガをしやすい危うさがあった。しかしその後は正攻法の粘り強い相撲を見せて、最後の最後まで諦めない相撲だった。思い出の一番は、敗れたが2021年名古屋場所に横綱・白鵬との結びの一番で「報われた気がした」との弁。勝った相撲では、2022年名古屋場所6日目の栃ノ心戦。クルクル回っての勝利。引退挨拶では「土俵の上では孤独だったが、多くの方に応援してもらって、背中を押してもらった」と目を潤ませながら語っていた。人柄が良く出ていたインタビューで聞いていて、こちらもウルウル。
観ていて『よくここまで頑張るな』と、心が動かされる健気な取り口だった。小さな身体に、大きなファイト。毎場所とも敢闘賞を差し上げたいくらいだった。17年間の力士人生、まさに天晴れと讃えたい。
引退後は尾車を襲名。これで『あゝ、琴風は琴恵光のために引退したのだ』ということがわかった。最近では引退時に年寄名跡を取得できないで協会を去る力士が多い。これも65歳から70歳まで雇用延長する参与制度が原因とも思われる。琴風だった尾車親方の67歳退職は、参与制度の弊害を如実に表した事象だったかもしれない。