コロナ禍の青少年アスリートの心はどういう状況?
2020年、突然訪れたコロナ禍。
世界中で様々な影響が出ていますが、
スポーツ界、特に青少年のスポーツに対する影響は計り知れません。
この記事では、アメリカの研究者によって発表された論文を紹介しながら、
コーチ、スポーツ心理学の研究者、
また、スポーツメンタルトレーニング指導士として、
私見も交えて書かせていただきます。
参考文献
この記事の参考文献は下記の論文です。
Timothy A. McGuine, Kevin M. Biese, Labina Petrovska, Scott J. Hetzel, Claudia Reardon, Stephanie Kliethermes, David R. Bell, Alison Brooks, Andrew M. Watson; Mental Health, Physical Activity, and Quality of Life of US Adolescent Athletes During COVID-19–Related School Closures and Sport Cancellations: A Study of 13 000 Athletes. J Athl Train 1 January 2021; 56 (1): 11–19. doi: https://doi.org/10.4085/1062-6050-0478.20
論文の概要(要約)
・2020年5月、アメリカでの調査
・ソーシャルメディア(Facebook、Twitter)を通して募集
・調査対象:13歳から19歳の青少年アスリート
・回答者:13,002名(女性52.9%、男性47.0%、答えたくない0.1%)
・46州の825地域
・不安傾向、鬱傾向、身体活動、生活の質(quality-of-life)の質問紙調査
(オンラインアンケート)
・性別、学年、競技種目、貧困レベルによって
メンタルヘルスやウェルビーイングが異なっていた。
・女子、12年生(日本でいう高校3年生)、チームスポーツ参加者、貧困層
の割合が高いエリアのアスリートにメンタルヘルス関連の兆候の増加や、
身体活動や生活の質の低下が見られた。
・ポストコロナにおいてはアスリートのメンタルヘルスケアが必要である。
青少年アスリートに対する影響はかなり大きい
この投稿を書いている現在(5/11)でも、
いくつかの都府県に緊急事態宣言が発布されていて、
私もスポーツ界にいる人間として
様々な対応に追われている状況です。
大人ももちろん大変な状況ですが、
青少年でスポーツをする者にとってもかなり深刻な環境です。
先に紹介した論文はアメリカでの調査ですが、
日本でも、青少年のメンタルヘルスに
大きく影響を及ぼしていると容易に想像できます。
ですが、この環境をすぐに変えることができない以上、
考えられる対処を行うしかありません。
影響①:格差が助長される
紹介した論文の中で、貧困の話題が上がるのは
アメリカ社会の特性上避けては通れないと思いますが、
日本でもじわじわとそのような影響が出てくることが予想されます。
スポーツでいうなら、まず、
家の大きさ。自室で十分動ける家であれば
自宅でのトレーニングも可能ですが、
そこまで広くない家に、自室がなく暮らしているアスリートも
少なくないでしょう。
そうなると、どうしても練習環境に大きな差が生まれてしまいます。
また、オンライン授業が進まない要因と似ていますが、
インターネット環境の整備にも差が見られるので
オンラインレッスンを受けられるアスリートと、
そうではないアスリートが出てきます。
さらに、スポーツはある意味「追加」ですから、
生活が困窮している家庭ではスポーツを続けられなくなります。
影響②:運動不足
日本の子供は年々運動不足になっています。
先の調査でも一部ありましたが、
運動不足が一層進むことが予想されます。
大人も「コロナ太り」してますよね。
普段の生活では、階段の登り降りなどから始まって、
知らず知らずに運動をしていますが、
家にいると、意識的に動かなければ
当然、運動量は減っていきます。
まして、部活やスポーツクラブの活動がなくなったら。
特に女子の運動不足は深刻なので、
日本でもポストコロナでさらに浮き彫りになる可能性があります。
運動は習慣化しないと続きませんから、
コロナ禍で習慣が途絶えてしまうと
戻すのは至難の技です。
影響③:メンタルヘルス悪化
運動が素晴らしい!心も身体も健康に!
と、スポーツに関わる人はよく言いますが
100%正しいとは思いません。
過度な練習量や不適切なトレーニング、プレッシャーなど、
色々な課題があることは認識しています。
ですが、スポーツが心と身体の健康に一定の効果を示すことは
様々な研究からも明らかです。
また、アスリートであるというアイデンティティが
生きる原動力だというアスリートもかなり多いでしょう。
実際、自発的でなく引退したアスリート(怪我など)は
心の元気がなくなってしまうこともあります。
COVID-19によって目標を突然失うこと。
突然引退をすること。
大きな衝撃となることは、想像に難くありません。
では、どうすればよいのか?
格差、運動不足、メンタルヘルス悪化、いずれにせよ
周りが気づいてあげることが必要です。
全てを簡単に解決する方法は難しくても、
解決の糸口が見つかるかもしれません。
気づいた時は、
いきなり提案や助言をするのではなく、
どうか、アスリートの気持ちに寄り添って
話を聞いてあげてください。
「今できること」「持っているもの」に注意を向けよう
嘆いたって悩んだって、
この状況を簡単に変えることはできません。
ですから、その状況で少しでも、
「今できること」、「持っているもの」に注意を向けましょう。
どうしても、失ったもの、あるべきだったもの、
人と比べて自分にはないものに意識が向きがちです。
ですが、きっとそんな中にも、
今できることがあるはず。
大会や試合がなくなっても、一人でできることがある。
命がある、住む家がある、ごはんがおいしい。
当たり前のことを当たり前だと思わず
持っているものに気づいて、大切にしていきましょう。
みんなで乗り越える。
アスリートだからといって、
いつでも強くあるべきではないのです。
まずは寄り添って、一緒に、小さな幸せ探しをしていきましょう。