創作物におけるタイトルのつけ方

わたしはときどき小説を書いている。小説の書き方とか、もっと抽象的な創作のやり方、構想の仕方というのは人それぞれだろうが、わたしは初めにテーマやら作品のギミックから出発して連想を膨らませ、有機的な繋がりを作って作品の形に持っていくタイプだ。要するに、作品の原形がけっこうまとまった形で最初に出てくるタイプで、作品のタイトルというのもその時点で決まっていることが多い。一度決めたタイトルが途中で変わることもごく稀だ。(というか、記憶にない)そういうわけで、「タイトルが決まらない」というぼやきを見るとちょっと不思議な気持ちになる。もちろん、できて当たり前ということはないし、わたしの創作のやり方がたまたまタイトルをつけるという行為と相性がいいのだろうと思うが、それでは何故わたしはタイトルをつける際に迷わないのだろうと考えるのも込みで、タイトルをつける方法論をまとめてみようと思った。

タイトルの役割

具体的な方法論を検討する前に、まずタイトルが作品においてどういった役割を持つのかを整理しよう。端的に言えば、タイトルとは作品の顔である。受け手がはじめに目にする部分であり、作品の象徴である。ここで、「受け手がはじめに目にする」という点と、「作品の象徴である」という点は、両立することもあるが、基本的には異なる性質であることを強調したい。特に小説作品は、エンタメ性を重視するものと、文学性を重視するものに大別され、それぞれで大きく戦略が変わってくることが多い。もちろん、どちらかに振り切れていることは稀で、大概は作品によってグラデーションがあるものだし、言うまでもなくそれらが両立できてこそ良い作品なのだが。
「受け手がはじめに目にする」という点に注目し、タイトルを「受け手が面白そうだと感じる」ようデザインするのがエンタメ的な戦略になる。この場合、タイトルの役割は「受け手を惹き付け、中身を見てもらうよう誘導すること」となる。したがって、簡潔でわかりやすい説明、流行っていてキャッチーな言葉、作品の中身が想像しやすい工夫、などが必要になってくる。必ずしも、読み終えた後にタイトルが腑に落ちるようなものでなくともよい。この戦略において、タイトルは作品を読ませた時点でその役割を終えているからである。
「作品の象徴である」という点に注目し、タイトルを「作品のエッセンスを凝縮したもの」としてデザインするのが文学的な戦略になる。この場合、タイトルの役割は作品の中心的な要素を抜き出したり、作品の全体的な雰囲気を体現させることによって、この作品はこのタイトルで表現されている、と受け手に納得させる、あるいは納得させられたような気分にさせることである。こちらはエンタメ的な戦略とは逆に、タイトルだけを見て読みたいという気持ちにさせる必要は必ずしもないが、作品をすべて読み終えたときにはこれしかないと思わせるようなものでなくてはならない。
なんとなく、タイトルをつけるのが難しい、と悩む場合は文学的なタイトルのパターンが多かろうと思うし、わたしはこっちの戦略でタイトルをつけることが多いので、主に文学的な戦略でタイトルをつける際の方法論について説明していく。というか、エンタメ的なタイトルのつけ方はかなり市場分析が必要になるだろうし、わたしはあまり得意ではないので、むしろそのあたり得意な人がいたら教えて欲しい。

タイトルの類型

さて、メインの話題であるタイトルの類型について紹介していく。
作品の内容を象徴する、エッセンスを取り出すという文学的な戦略でタイトルを作っていくのであれば、大まかにタイトルの付け方は二通りある。要素を切り出すか、全体を形容するか、である。当然ながら、作品をただ一言で表すというのはどだい無理な相談である。よって、作品の一部分に注目してそれを切り出すか、ぼんやりとしていても、なんとなく作品のイメージを言い表すような言葉を設定するのが方針となるだろう。ただ、基本的には、作品の中心となるような事柄を見定めて、それをタイトルに設定するという前者のやり方がやりやすいと思う。
タイトルというのは、基本的に名詞である。では、作品の中心となるような名詞とはなんだろう。まさしくこの、「作品の中心となるような名詞」を分類することが、タイトルの類型を紹介することにかなり近いと考えている。

キャラクター名をタイトルにする

最もわかりやすいのはキャラクターである。キャラクターの名前をタイトルに冠している作品はかなり多い。「NARUTO」や「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のようにキャラクターの名前が単独でタイトルになることもあるし、何か別の言葉と組み合わされていることも多い。
ひとつは、誰が何をする話かをタイトルに据えるケースだ。基本的にストーリーテリングというのは誰が何をする話と要約されることが多いのだから、まさしく誰が何をする話かが話の中心となっているのならば、それをそのままタイトルにすればよい。最もわかりやすい例は「キノの旅」だろう。キノが旅をする話だからそのままである。「ヒカルの碁」もその例で、ヒカルが碁をする作品だ。
他にも、キャラクターの名前そのものでなくとも、主人公を指す二つ名や役職がタイトルになる場合もある。「チェンソーマン」、「ジョジョの奇妙な冒険」だったり、「鋼の錬金術師」や「魔法少女まどか☆マギカ」もこれにあたるだろう。
また、特にラブコメジャンルで多いのはヒロインの感情や振る舞いをそのままタイトルにするやり方だ。「かぐや様は告らせたい」とか「塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い」がある。特に後者は、ヒロインの名前を掛詞的に使って面白みを作るやり方で、最近流行っているのかよく見かけるように感じる。「無能なナナ」も、ラブコメではないがこのパターンだ。
当たり前だが、キャラクター名がタイトルになっているのはキャラクターが中心的な魅力となっている作品群で、裏を返せばキャラクターを中心として推していきたい作品であればキャラクター名をタイトルに入れるのは自然な発想である。
わたしはこの類型で作品タイトルをつけることはあまりなかったが、最近はキャラに寄せた話を書く方にシフトしているので、「死にたがり皇女と殺し屋騎士」だとか、「ことのはわたり、恋うたう」だとか、この類型も時々使うようになった。ただ、二次創作作品はキャラ中心ではあるものの、もともとどのキャラを出すというのをタグであったり説明文に記載することが多いので、「こころの在処」のように掛詞的な技法が使えるときにしか、あまりこの方法は使わない。

作中の設定をタイトルにする

ファンタジー作品で多いのは、キャラクターでなく作品の舞台をタイトルに据えるパターンだ。「ソードアート・オンライン」、「シャドーハウス」、少しひねっているが「メイドインアビス」や「かがみの孤城」などもこの例にあたるだろう。
また、作中で登場する独特なアイテムや職業、モチーフなどの固有名詞を組みこむことも多い。「精霊の守り人」、「ハリー・ポッターと賢者の石」、「指輪物語」、「空色勾玉」、「ドラゴンボール」、「ONE-PIECE」、「進撃の巨人」など。先に紹介した、中心人物の二つ名をタイトルに据えるというのも、中心的な設定をタイトルにするというやり方として捉えることもできる。
わたしがこのやり方でつけたタイトルには、「銀の香」、「〈母霊樹〉の葉陰にて」、「朱翼のリヨント」などがある。二次創作では、舞台も固有の設定も基本的には原作のもので、前提になっているところなので、あまりこのつけ方で設定したことはない。
ファンタジー作品は、舞台であったりなにか特別なアイテムや仕事であったりが作品の中心として設定されていることが多いため、これらがタイトルに組みこまれることが多い。

象徴的なモチーフをタイトルにする

固有名詞ではないものの、作中の象徴的な場面やシチュエーション、台詞、特徴的なモチーフを抜き出す方法もある。「ブルーピリオド」は早朝の渋谷の風景を形容した言葉で、主人公が美術にのめりこむ切っ掛けとなったモチーフである。「狼と香辛料」、「君の名は」、「そして誰もいなくなった」、「四つの署名」、梶井基次郎の「檸檬」などもこの類型だろう。
見返すと、わたしは二次創作作品にかなりこの方法でタイトルをつけている。「遺稿」、「旋律」、「夏の日に」、「夏風邪」、「お姉さまはひとりだけ」、「寄り道ふたりの帰り道」などだ。特に短編で、タイトルにあっさりとした印象を持たせたいときは、この方法でありふれた言葉を選ぶことが多い。

作品のコンセプトや方向性をタイトルにする

今まで挙げたのは作品の一部分をタイトルにする方法だが、作品全体の形容をタイトルに据えることもある。体感だが、ジャンルの強い作品で顕著だと思う。例えば「響け! ユーフォニアム」のような部活ものでは、部活そのものがタイトルに組みこまれていることが多く、「ABC殺人事件」のようなミステリでは事件の名前がそのままタイトルになる場合がある。「STAR WARS」のようなSFもそうだ。
これらに共通することとして、ジャンルに特徴的な単語があり、それを入れることで作品の方向性を汲みとってもらえるという事情がある。先に紹介した、ラブコメジャンルでヒロインの感情や振る舞いをタイトルにするというやり方も、ある種この類型の一種と見なせるだろう。少し異なるが、「義妹生活」も、妹ものジャンルを推しだした例だし、「終末何してますか? 忙しいですか? 救ってもらってもいいですか?」は終末ものジャンルを推した例といえる。
それはそれとして、ジャンルとは関係なく作品のコンセプトや方向性、テーマ、作品の中で起こっていることをそのままタイトルにする場合もある。「狼少年は今日も嘘を重ねる」、「現実もたまには嘘をつく」、「推しの子」、「やがて君になる」、「処刑少女の生きる道」、「ぼくたちのリメイク」などだろうか。これらを包括的に説明することは難しいが、その作品が何をテーマとして扱っているのか、どういうことをする話なのか、というのをうまく要約する、ということになるだろうか。
わたしは特に二次創作をするにあたっては、この方法でタイトルをつけることがままある。「A RECORD OF GRIEF」や関連した作品群である「Murderous Conflict」、「Heartless Assassin」、「Lost Bloom」はまさしくジャンルを推した例だし、「消えない傷、消えない罪」は傷と罪というモチーフへ、アオとらんかが抱えている欠落というテーマを仮託したものになっている。また、「月のみなしごわすれもの」は、深月フェリシアの「月」、孤児である境遇、忘却の魔法、というモチーフを拾いつつ、フェリシアとさなが月に見守られる中で、忘却の魔法を使って擬似的な親殺しの共犯者となり、義姉妹となる場面を象徴づけるタイトルとして設定している。わたしはかなりテーマ性やそれを象徴するモチーフにこだわって創作をするタイプなので、それがそのままタイトルへとスライドすることが多い。

結び

さて、色々と例を挙げる中で気がついたことと思うが、これまで挙げてきた類型というのは重なる部分が大きく、複数の類型にまたがっているタイトルも多い。それは当然のことで、えてして良いタイトルというのは多義性を持っているからだ。誰が何をするか、というタイトルの中にジャンルの要素が含まれたり、設定やモチーフに作品のコンセプトが含まれていたり、キャラクターの要素が入っていたりする。そういった、作品の様々な要素を最大公約数的にすくい上げることができるのが良いタイトルの条件といえるかもしれない。
ただ、慣れないうちは全部入れようとしても上手くいかないので、上に挙げたような類型を意識しながらアイデアを出していくと、我武者羅に考えるよりも建設的……かもしれない。なにぶん、わたしはタイトルがいつの間にか降ってくることが多いのであまり自信はないのだが……。とはいっても、結局は組み合わせなので、上の類型を複数かけ算していくことで、よりよいタイトルにブラッシュアップしていけるのはそうだろうと思う。
ただ、すべてにおいて大切なのは作品の中核や温度感がどのあたりかを見極め、それに相応しいタイトルを選ぶことだ。その作品でやりたいこと、推したいこと、伝えたいことをタイトルに据えるべきである。その後、作品のテイストと合うように表現を調整する。例えば傾向として、固有名詞を使うほどエンタメ的なタイトルに、一般名詞を使うほど文学的なタイトルに感じられることが多い。意味は同じでも、漢字、カタカナ、ひらがな、英語のどれを使うかによって与える印象は変わってくるし、タイトルの長さもそうだ。
タイトルがどうしても決められないときは、そもそも作品の中心が定まっていない可能性もある。作品の理解度はタイトルをつける難易度へ如実に関わってくるので、そういう場合はタイトルを考えるより先に、自分の作品がどこを目指しているのかきちんと考えることが大事だろう。
この記事が「タイトルが決まらない」という悩みの一助になれば幸いである。

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