「ライブハウスのビール」
先日、打首獄門同好会の北海道ツアーがあった。根室、北見、帯広、旭川、札幌、函館、岩見沢を巡るツアーである。札幌以外の北海道の地方をそんなにも回るのは、正気の沙汰ではない。
そのライブのさなか、大沢会長は言った、「北海道での集客が難しく、北海道でのライブ頻度が下がっていく、というのはバンド業界あるあるだ」と。そして、続けてこのようなことも言った。「その北海道、というのは札幌を指しており、いわんや北海道の地方でのライブは皆無に等しい。ところが我々はその北海道が好きであり、その気持ちを突き詰めた結果、ついに北海道でツアーを組むという趣味を実現する勢力を手に入れた。今回のツアーの公式ページを見てほしい、あれはもはや旅のしおりである」と。
なるほど、正気の沙汰ではないはずだ。趣味なのである。それほどまでに北海道を愛してくれてありがとう、打首獄門同好会。さすが、水曜どうでしょうの曲を自主的に作り、水曜どうでしょうキャラバンに公式にお呼ばれするに至った名誉道民(八重さんが勝手に呼んでいる)。あっぱれすぎる。
閑話休題。
そのライブのいくつかに八重さんも参戦してきた。何を隠そう、八重さんはロック大好き人間なのです。
いやー踊った踊った、踊り狂った。それはもう足腰が立たなくなるほどに。心臓がもげちゃうかと思うほどに。三時間も飛び跳ね、拳を突き上げ、時にともに歌い、時に拍手をすれば当然の末路である。消費カロリーにして700キロカロリーはゆうに超える運動量だ。汗は何リットルかいたことだろう、ライブTシャツはしとどに濡れていた。アドレナってた夜が終わり、その翌朝の体のバキバキ具合は言うまでもない。
それにしても、「ライブ後のライブハウス外で飲むビール」はなぜあんなに美味しいのか。あの時間に勝るものはそうそう無いよ、いやほんとに。ライブハウスに行く人はかなりの割合で同意していただけるものと確信している。あれがなければ、ライブの魅力は半減するかもしれない。ライブハウスでのライブの魅力とは近距離での生のパフォーマンスとMC、体の芯を揺らすスピーカー、熱気の充満したるつぼのような空間、そしてライブ後のビールで構成されるものだからだ。……あれ?半減は言いすぎましたね。要素が5つなので二割です、二割減。
あの美味さはただ事ではない。やはりハレとケ(非日常と日常)で言うところのハレ、その余韻をじっくり噛み締めている時間だからだろう、そうに決まっている。それでなければ説明がつかない。ハレとケのあわいで惚けている時間なのだ。
一説にはケを過ごすためのエネルギーが枯渇している(枯れている)状態がケガレなのだそうだ。我々にはそのエネルギーをハレでチャージする、という循環が必要らしい。であれば、ライブ後に「体はバキバキなのに心に活力があふれている状態」についても大いに納得できるところである。
とにかく、あのライブ後のビールに匹敵するものは、祭りのさなかに飲むかちわり入りの日本酒か、さもなくばキャンプで焚火を眺めながらスキットルですするウィスキー、あるいは愛すべき友人の結婚式で飲むシャンパンぐらいしかないのではなかろうか。
ああ、またライブハウスで踊り狂いたいな。そして最高の一杯を。
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