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宿木屋のZINEづくり|第2回「それぞれの強みを集めてつくるZINE」
こんにちは。宿木屋という会社で日々ライティングや編集、企画に向き合っている、代表の宿木です。本連載では、宿木屋として初めて挑戦したZINEづくりの道のりを振り返ってお届けします。
「宿木屋のZINEづくり」第1回はこちら↓
第2回は、企画と座組のお話です。「一人でつくるのではなく、みんなでつくる」を選んだあと、どのように企画をまとめ、共につくる人たちをプロジェクトに巻き込んでいったかを振り返ります。
ボツになった企画から学んだこと
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「みんなでZINEをつくろう」という合意が取れたら、次は「何を書こう」という問いが生まれます。この「何を書こう」は、目指すゴールによって変わります。
最初に出し合った案の中では、「宿木屋がどのように取材記事をつくっているのか」といったノウハウをまとめたり、そのノウハウを活かして誰かにインタビューした記事を収めたりする案が出ました。ふだんの仕事に近しい内容であれば、メンバー全員が書きやすいと思ったからです。
しかし、もともと宿木屋でZINEをつくろうとしたのは、一緒につくったZINEを、いつかみんなで読みあって振り返りたいからです。であれば、宿木屋がふだんの事業で活かしている強みを打ち出すことよりも、それぞれの味が出ることのほうが重視されるはず。ゴールに立ち戻ることで、「もっと自由に書けるテーマのほうがいいよね」と、方向性の違いに気付きました。
次に出てきた案は、「酒」をテーマにしたエッセイ集です。私が大の酒好きだからこそ、自然と出てきたアイデアでした。「ワイン、日本酒、焼酎……種類を分けて、それぞれエッセイを書こう!」という話で盛り上がり、メンバーそれぞれが書きやすいお酒を振り分け、それぞれアイデアを箇条書きにして、意見を出し合いました。
そこで気づいたのは、メンバーそれぞれの書き手としてのスタンスの違いです。
まず、メンバーの一人が「エッセイと創作の切り分けが難しい」という疑問を投げかけてくれたことで、自分の経験談をどこまでつぶさに書くか、どんなふうに自分の過去を扱うか、対話できました。そのやりとりを通じて、自分の経験談を書くという行為について、それぞれ異なる価値観を持っているとあらためて実感しました。
別のメンバーからは、「エッセイ執筆の経験が浅いため、何を『よい文章』と判断するかが難しい」という意見も出ました。
ふだんライターは、取引先の求める内容や、その先にあるゴールを意識して、よりよい文章を目指すものです。しかしエッセイ執筆においては、そういった正解がない中で文章を書くことになりますから、よしあしの判断が困難になるのは自然なことだと思います。
また、当時の宿木屋には編集業務をメインに活躍するメンバーがいました。執筆に苦手意識を持っていて、かつビジネス系に強みを持つその人は、今回のZINEづくりでは力を発揮しづらそうでした。
こういった一人ひとりのスタンスを見比べ、企画や座組を考えているうちに、「そもそもエッセイ集でよかったのか?」という疑問がふくらんでいきました。
私はもともと、仕事で原稿を書くほかにも、noteやブログを通じてエッセイを書いてきました。自身の経験を、何らかのテーマに合わせて料理して書くことに、あまり抵抗感がなかった人間です。その感覚を、ほかのメンバーに押し付けてしまったのかもしれない。
いざ執筆という段階になって、その予想は的中しました。言い出しっぺの私は、いつもの感覚でエッセイを書いて、「こんな感じでどうでしょ」といちはやく原稿を共有したのですが、結局、そこでこの企画はボツになりました。というのも、ほかのメンバーがうまく書き進められない状況に陥ったからです。
いま振り返ると、ほんとうに突っ走っていた……と反省します。自分ひとりでつくるZINEなら、自分が好きなテーマで、自分が書きやすい形を選べばいい。でも、私はメンバーと一緒につくりたい。そこを前提にしたら、もっと柔軟に考えられたはずなのに。
ちょうどこのタイミングで、主事業の繁忙期やらメンバーの脱退やらが重なって、ZINEづくりは一度ストップしました。
協力してくれるメンバーの強みを活かせるZINEに
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それからすこし月日が流れて、「ZINEづくり、どうしようか」とゼロベースで考え始めました。
宿木屋を支えてくれている二人のメンバーは、それぞれまったく異なる強みや趣味を持っています。
三角園いずみさんは、ふだん短歌を書いたり、身近にある風景の写真を投稿していたりしています。そのあたたかな視線は、仕事でももちろん活かされているけれど、もっと多くの人に届いたらいいな、と前々から思っていたものです。
ayanさんは、何年も前からトラベルライターとして活躍しています。宿木屋ではビジネス系の記事を完成度高く書いてくださっていますが、国内外のあらゆる場所を体験してきた彼女の心の中には、きっと私が知らない景色がたくさんあるはず。
「人」を起点に何を生み出せるか考えてみると、酒をテーマにしたエッセイ集の案は方向性を間違えていた、と私は反省しました。ぜんぜん二人の強みを活かせない。むしろ、私が踊れる舞台に引き込むような案だった、と。
そこで私は、考え方を逆転させてみようと思いました。むしろ二人が踊りやすい舞台に、私が乗っかっていく形ならどうだろう、と。そこで思い浮かんだのが、いずみさんとつくる歌集と、ayanさんとつくる旅にまつわるエッセイ集というアイデアでした。
ちなみに、今回ZINEをつくるまで私は短歌を詠んだことはありません。旅についても、これまである理由から書いてきませんでした(その理由は、ZINEのエピローグに軽く書いています)。つまり、どちらも私にとって初挑戦の領域です。
でも、みんなでつくるZINEだからこそ、私が未開拓の領域に挑戦できる。そう思うと、今までとはまるで違うワクワクが生まれてきます。
はじめての宿木屋のZINEは、2冊同時刊行にしよう。そして、中身は歌集と旅のエッセイ集にしよう。この方針が決まったら、一気に視界がひらけました。
最高のタイミングで出会えたパートナー
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企画について考えるかたわら、もう一つの大きな課題が私の頭の中にありました。それは、本という形をつくるプロセスです。
表紙のデザイン、本文の組版、印刷。もちろん、すべて自分で対応することもできます。今はデザインや組版ができる便利なソフトがたくさんあり、印刷会社も自費出版がしやすいプランを提示してくれています。
でも、ふだん文章を書くことを専門とする宿木屋には、それらのノウハウはありません。ZINEづくりを通じてゼロからスキルを習得することも考えましたが、企画ですら手探りの状態だったので、すべてを自分でやりきる自信が正直ありませんでした。
何より、いつか振り返って読みたいと思えるZINEにすることが、今回のゴールから考えると重要です。何度触れても「やっぱり素敵だな」と思える、そんな一冊にしたいという想いが強くありました。
「中身よければすべてよし」というよりは、手に取ったときやページに触れたときの感覚を、大事にしたかったのです。つまり、紙質や表紙にもこだわりたい。これはもう、素人の領域を超えた高い理想を掲げてしまっているなぁ、と悩んでいました。
そんな私に手を差し伸べてくれたのが、展葉社です。同社の代表である瀬良さんは、言葉を強みの原点としつつ、ブランディングやクリエイティブ制作、イベント企画・運営など、非常に幅広い事業を展開しています。
「私たちの原稿をもとに、各ZINEのコンセプトを体現するような本に仕上げてほしい」。そんなざっくりとした要望にも関わらず、瀬良さんは快く引き受けてくれました。
すこし話は逸れますが、展葉社で企画・開催されたワークショップでは、参加者が持ち帰ってそのワークショップの時間を振り返るためのノートが手渡されていました。
そのノートは、一つひとつ手作りされたもので、ひと手間加えられたデザインが光るものです。そのひと手間を惜しまない、コンセプトに合ったクリエイティブを生み出す力に、感銘を受けました。
きっと展葉社なら、宿木屋が思い描くZINEを形にしてくれるはず。そう確信したからこそ、私はすべてを託すことにしました。初めて出す宿木屋のZINEに展葉社にも関わってほしい、という想いも強くなっていました。
瀬良さんとは、今年出会ったばかりにもかかわらず、今はPodcast番組を一緒に録るくらい意気投合しています。ちょうど初めてのZINEを作るタイミングで彼女に出会えて、ほんとうに良かったと思っています。
「みんなでつくる」の意味をあらためて感じた準備期間
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こうして、宿木屋のZINEを作るメンバーの座組と、何を作るかが決まりました。振り返ってみて、最初の頃の私はみんなでつくることを理解しきれていなかったのだと感じます。
自分が書きやすいテーマを扱うアイデアをよしと感じていたこと、執筆以外は自分ひとりでやろうとしていたこと。結局、自分でやればいいじゃん、という範疇にとどまった考え方をしていました。
けれど試行錯誤をしていくうちに、大好きな人たちが活躍できて、それぞれの持ち味が存分に活きるのはどういう形なんだろう、と考えられるようになっていきました。
仕事で関わるプロジェクトにおいては、何を作るかが前提にあって、関わるメンバーが成果物を作れるよう、スキルをアレンジしていくのが一般的です。でも、今回のZINEづくりはゼロから自分たちで決めていくのだから、関わるメンバーのスキルが前提にあって、それによって成果物が変わっていく形でもいいわけです。
そうすることで、いつか振り返ったときに最高の一冊だと思えるものができるはず。私は今回、そう信じられました。
さて、次回はZINEづくりの道のりをまとめた連載の最終回として、執筆から販売準備までのあれこれを振り返っていきます。「書く内容さえ決まってしまえばあとは簡単」と思っていましたが、その後もまだまだ壁はありました……。
今回振り返っているZINEがどんなふうに仕上がったのか、先に書影をお見せします。左がいずみさんとの短歌集、右がayanさんとの旅エッセイ集です。
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もっと内容を知りたい、手に取って確かめたい方は、下記オンラインショップからご予約を受け付けていますので、ぜひチェックしてみてください。
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今すぐご予約いただけますが、発送は2025年1月中旬を予定しています。