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雪かきの大変さについて細かく説明してみた

「雪かき」とは、豪雪地帯に暮らす人のみぞ知る冬季限定のタスクだ。積もった雪を生活に支障が出る場所からそうじゃない場所へ移動する行為を指す。地方によって同様の行為を指す「雪はね」「雪なげ」「雪はき」などの言葉がある。掻く、撥ねる、投げる、掃く。どれも実際の行動に即した表現だけれど、「雪かき」の全容を表せているとは思えない。


雪かきをするにあたっては、前提として生活に支障が出る程度の積雪がある。例えば、玄関から出た先で膝まで雪に埋もれてしまうとか、自動車が車庫から出せないとか。外出するための道がなくなるから雪かきをするのだ。では、その雪をどこに移動するのか。これを考えるところから雪かきが始まる。

ただシャベルで掘ってポイっとそこらに投げればいいじゃんと想像する方もいるかもしれないが、積雪は一日で終わらない。平均4カ月は雪が降り続けるし、ひどいときは一晩で胸元の高さくらいまで積もることもある。「ポイっと投げる」だけでは、最悪翌日には作ったはずの道ごときれいに埋まって消えてしまう。特に風の強い地域だと、一方向に強く吹き続ける風と雪のコンボで自ら作った山の大きさが増していく。風向きが悪いと作ったルート側に山がせり出すので、雪かきが逆効果になることすらある。

雪の壁に対して新しい雪が風で吹き付けられていくと、その部分がこんもりとせり出してくる。

雪かきを滞りなく進めるためのファーストステップは、生活圏内からある程度離れた場所に、かいた雪を集積する場所を整えること、そして、そこまでの道をつくることだ。この準備をしっかりやっておかないと、大雪が降った日にはまじで身動きが取れなくなる。

雪の集積場づくりにもコツが要る。たいていの一軒家では庭や隣接する空き地を利用するのだが、雪で境界が曖昧になっているからといって他人の土地に染み出してはいけない。また、公共の道路にも雪を捨ててはいけない。

となると隣家と接触していない庭を利用するのが一番安心だが、あまりに玄関や車庫前から離れていると、今度は雪かきの運動量が倍増する。重い雪をママさんダンプ(※)に積んで何往復もしなければならないから、できるだけ近いほうがいい。誰にも迷惑をかけず、かつ広くて家の前から近いエリアを確保するのには、割と頭をつかう。

(※)ママさんダンプ:女性でも扱いやすいことからその名がついた除雪用のダンプ。

集積エリアが確保できたあとも、雪かきにはいくつかの困難がある。そのひとつがタイミングだ。人通りがもっとも少ないAM3~4時頃に道路の雪を横に押し出す除雪車が入ってくるため、各家の玄関や車庫前はその日の積雪量に応じてこんもり山ができた状態で朝を迎える。この山を出勤前にクリアしないと外出できないから、自動車で通勤する必要がある一般的なご家庭ではAM5~6時あたりが雪かきピークタイムとなる。

除雪車が深夜の住宅街に入ってきて、積もった雪を押し出して道路を確保してくれる。が、そこで押し出された雪は家の前に残るので、家主が雪かきする必要がある。

一方私の場合は家がオフィスだから、この時間帯に雪かきをする必要はない。というか買い物するときだけ外に出られればいいので、最低限の雪かきで事足りる。しかし雪かきの進捗は、その家の外出状況を反映する。つまり何が起こるかというと、どの家も毎朝雪がきれいによけられるのに、私の家だけ日に日に埋もれていくという妙な状況が生まれる。

田舎なので近所に噂話が通りやすい。家にいるのに雪かきをしない女は目立ってしまう。だから一般のご家庭と紛れられるレベルのカモフラージュ雪かきをしなければならない。とはいえカモフラージュのためだけに早起きするのはさすがに厳しいので、AM8時台が妥当な雪かきタイムになる。

この時間帯は、すでに定年退職を迎えたらしき老人の皆さまと雪かきのタイミングが重なる。除雪機をつかったり、孫や子と協力しあって雪かきしたりする姿をちらほら見かける。雪かきは大変な重労働だ。数十万円の機械を購入して効率化するか、あるいは家族を頼ってチームプレーするか、なんらかの手段をつかわないと老後の雪かきは厳しいだろう。豪雪地帯の一軒家で一人暮らしというハードモードを選択してしまった自分にとっては、あまり考えたくない現実だ。


そうやってひとり考え事をしつつママさんダンプを押していると、けっこうな頻度で近所の人から声をかけられる。おそらく皆さんには特に差し迫った予定がなく、雪かきがてら世間話に花を咲かせても問題ないのだろう。当然、おなじ時間帯に雪かきをしている私もその一員だと思われている。

が、しかし。私はフルタイムで仕事をしている。家がオフィスだから出勤はしないが、暇なわけではない。この世間話トラップはかなりのタイムロスにつながる。かといって「忙しいんで」と断るのも心象が悪そうだ。Webライターとしてフルリモートで働いていることをうまく説明できる自信もない。結局、午前中から打ち合わせや取材がある日や繁忙期は外に出ないほうがいい。

そんなこんなで一番安心して雪かきができるのは夜、できるだけ誰もいない深夜となるわけだが、先に述べたようにAM3~4時あたりで除雪車が入るので、いくら綺麗に雪かきをしてもその数時間後には山が再びできてしまう。最適な雪かきのタイミング問題は、いまだに答えが出ていない。


雪が降るタイミングは誰にもコントロールできない。天の気まぐれでこちらの繁忙期に大雪が降ることもある。仕事にかまけて雪が降るままに放っておくと、食品や日用品を買い出しに行くことすら困難になる。だからと言って「すみません、ちょっと雪かきが立て込んでまして」と東京にお住まいの取引先の方々に伝えても意味がわからないだろうから、通常通り仕事を進めながら、いつ迫ってくるかわからない雪かきという緊急タスクにも対応しなければならない。

雪を甘く見ていた頃、数日間仕事を優先して外に出たら車が完全に雪に呑まれていて絶望した。

雪かきは1回あたりだいたい30~40分。重量を計測したことはないけれど、それなりに両腕に負荷がかかる重さの雪をママさんダンプに積んで、ゆるやかな坂を押しながらのぼって集積エリアに移動し、雪を捨てる。そしてまた車庫前や玄関前に戻って雪を集める。この繰り返しを40分休憩なしで続けると、割とハードな運動になって汗をかく。雪かき直後に打ち合わせなどを入れるのはできるだけ避けたい。化粧なおしと着替えを挟みたいからだ。そうなってくると、けっこうスケジューリングも難しい。今のところ、冬の間はできる限り午前中はあけておいて、いざというときも雪かきできるようにしている。


これは雪がそれほど深くない時期の北海道。このくらいが一番きれいなんだけどなあ。

純白に染まった北国の冬は美しい。が、それと引き換えにこれだけ面倒な雪かきというタスクも背負って現地の人間は生きている。移住したことに後悔はないけれど、住む場所はもうちょっと考えたほうが良かったな、と、毎年雪が本格的に降ってくると思う。

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