かみかくしくかみか
それは二年前の冬に起こった。当時私の焼き芋熱は最高に達しており、月一でさつまいもを箱買いしては毎日ふかして食べる生活を送っていた。
ある朝、いつものように芋を二本電子レンジで加熱し、一本は弁当に入れ、もう一本は帰宅後に食べるために戸棚の上に置いて家を出た。そこまでは良いのだが、いざ学校から帰ってきて戸棚の上を見ると、置いたはずの焼き芋がない。冷蔵庫の中、電子レンジのまわり、あり得るところを全て探しても見つからない。家族らに聞いても知らないという。私の家族はみんな焼き芋に興味がないため、誰かが食べて知らないふりをしているとも考えづらかった。
次の日になっても、その次の日になっても、とうとう芋は見つからなかった。
そこで私は、「あれは、どこかの世界に送られたのだ」と合点した。だってそれ以外に焼き芋が忽然と消える原因なんてあるだろうか?いや、ない。
例えばそう、あれはもともと芋ではなく、芋に擬態した地球外生命体だったかもしれない。何も知らずに食べた私が寄生され、そこからエイリアンが増殖して地球を侵略する運命だったかもしれない。きっと、それを阻止するべくやってきた未来人が、全ての元凶となる焼き芋(に擬態したエイリアン)をシメて、研究のために持ち帰ったのだ。うん、きっとそうだ。
あれは、六月初旬のある日の帰り道のことだ。風はまだ初夏のものだったが、その日はとても日差しが強く、私は目を細めてゆっくりと歩いていた。
家にほど近いところまで来たとき、少し先の路上に何かが落ちているのに気がついた。日の光を受けて黄金の輝きを放つ擬宝珠――ではなく、玉ねぎだ。駆け寄っていく。転がっている丸いフォルムと楕円形の影を手早くスマホで撮影する。こういうものは、溶けたり、消えたりしないうちに証拠を押さえておくことが肝心なのだ。
次に、かがんで右手を玉ねぎに乗せ、その曲面に手のひらを添わせて鉛直に持ち上げ、左手に持ち替えてから立ち上がる。依然として消失する気配はなく、玉ねぎ相応 の重みを感じる。
そこでやっと私は、「これはどこかの世界から私に贈られたものなのだ」と確信した。 その晩、玉ねぎはスライスサラダとして食卓にのぼった。私は生の玉ねぎを一気に食べると通常めまいに苦しむのだが、その日のサラダはいくら食べても何ともなかった。
あれはやっぱり、玉ねぎではなかったのかもしれない。
文:放たれ
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これは以下の企画6日目の記事です。
https://note.com/yadorigi0520/n/n0930ba15f931?sub_rt=share_pw