やどかりハウス第二幕”助かり合う私達へ”

3年間で1,500泊、250名が利用したやどかりハウス。街に生まれた駆け込み寺は、第二幕を迎えている。
そのファンファーレとなったエピソードを紹介します。のきしたjournal4号特集「届かない手紙」にも掲載している内容です。

ロゲンがやってきた

ロゲンは天使だったのではないか。そう思うことがある。 　
自由の国アメリカで「世界の悲しみ」を一身に背負い、深手を負った天使は、 命からがら「日本」というより僕らの元にやってきた。誰よりも礼儀正しく、 優しく、澄んだ魂を持った彼は、日本語をほとんど話せなかったが、みんなの 心の中にある温かなものと通じることができた。やどかりハウスに逃れてきた 傷ついた女性に「ロゲンとなら一緒に住んでもいい」と思わせ、精神を病みフリー ズしてしまった彼を小さな子供たちが囲み癒そうとした。「あと 200 円しかない」 と犀の角に来てから 2 ヵ月もの間、様々な人達が公私にわたり彼が笑顔で生活 できるよう手伝った。私自身も我が家に泊めさせ、温泉に連れていき、洗い場 でフリーズしてしまう彼の入浴介助のようなことまでした。いつの間にか私た ちの生活はロゲン一色になっていた。しかしそのことが嫌ではなかった。むし ろ幸せに感じることさえあった。あれは何だったのだろうか。 　

支援の限界

滞在期限が迫る中「観光ビザで入国したが困窮しファミリーからの支援も受 けられず孤立した外国人」に、私達がしてあげられることには限界もあった。 あらゆる公的機関や民間支援や専門家を頼ったが、手立てはなく二ヶ月が過ぎ た。私たちは結局警察を経由して行政に彼を預けた。行政側も制度がない中で 超法規的に動いてくれ、彼は一旦精神病院に入院し、国に帰国することとなった。 後半の期間、彼はいつも見えない敵に追われており、銃に見立てたハンガーで 私達に銃口を向けさえした。「うまくいかないことは最初から分かっていた」と も話した。あんなに嫌がっていた国へと帰国した彼とは、その後まったく連絡 が取れず、消息は分からなくなった。 そして、やどかりハウスの流れはそれ以降大きく変わってしまった。

受け入れてきたからこその壁と答え

ロゲン がいた 2 ヵ月間に生まれた一つの空間、そのブラックホールのような次元の穴 には、彼と同じようなどうしようもない問題を背負った人たちが、まるで吸い 寄せられるように押し寄せた。不思議なことに皆やどかりハウスを知って辿り 着いたわけではなかった。私達は身も心も翻弄されながら、その真っ暗闇の前 で立ち尽くした。もはや吸い込まれそうなギリギリのところで無期限休止を決 断した。それから毎日のように私達は話をした。多いときは一日中議論をした。 とても苦しい時間でもあった。嵐の大海原で船同士をしっかり舫わないと沈没 しかねない状況だったように思う。話すことによって自分達を舫いながら 2 週 間が経ち、ようやくたどり着くべき岸が朧げに見えてきた。
私たちはいつでも 暗闇のそばにいたのだということ、この狂った世界の荒波の中で私たちがやる べきことは「誰もが助かる大きな船を作る」のでは無く、私たちも共に世界を 航海する小さな船同士、舫いながら共に航海するのだと。やどかりハウスは助 ける場では無い。助かり合う場なのだ。
どんな人も受け入れてきたからこそ見 えてきた壁であり答えであった。コロナ禍に劇場で始まった物語は一幕目を閉 じ、第二幕が始まろうとしていた。演題は「助かり合う私達へ」 　

ファンファーレ

第二幕を始める前夜。宣言文を深夜に仲間と作った。その夜にやっと言葉に なったこともあった。最後のピースが埋まったような気持ちで安堵し、私は LINE を閉じた。その 5 分後である。2 ヵ月音信不通だったロゲンからメッセー ジが仲間のもとに届いた。ロゲンがいなくなり明日でぴったり 2 ヵ月のタイミ ングで。それは第二幕の幕開けになんともふさわしいファンファーレだった。 私たちはもうロゲンを助けようとは思わなくなっていた。ホームレスシェルター にいるという彼と、ビデオ通話をし、満面の笑顔で笑い合い、労い合い、出会 い直すこことができたのだった。 　

助かり合う私達へ

第二幕が始まって最初ののきした journal。遠い国にいるロゲンにも手紙を寄 稿してもらった。彼が何を意図してこの手紙を書いたのかはよく分からない。 架空の手紙を書いたとだけ彼は言った。しかし意味の世界はもはや僕らをつな ぐ線ではない。意味は無くとも彼の世界と私たちの世界は何一つ離れていない。 いつも一緒にこの荒れた大海原を進む大切な仲間である。ロゲン、やどかりハ ウスに来てくれてありがとう。これまでやどかりハウスに繋がってくれた 250 名以上の人達、全ての人に感謝をしたい。ありがとう。 やどかりハウス第二幕。舟は今、港を出たところである。

ロゲンから送られた「届かない手紙」

Yuki, I don’ t have much time to write but I will bear my stomach to you. You are not happy. I have noticed for awhile that you have been languishing here. You do what you are asked but you don’ t seem to reap any rewards. ere is a place you can go on the other side of the world. I want you to be condent that you can do this for me. I need you to succeed because I can not be with you always. You see, I couldn’ t always be there for you and you learned things that you did not need. ey help you but they distract you in your moments of immaturity. You have to be more prescient of the times we are going through and make something of yourself. You see, you cannot “get by” the way you use to: everything has to make sense when you do it. Or, you will be out of place. Be conscious of the fact that I am not a cruel master but know that I am not a good friend or a teacher. I am merely a guide for you at this time. I am making sure you will be condent in your endeavors always. I had dinner the other night with an old friend and she noticed that you are always stewing, thinking about your future as if there is something you are reaching for over the horizon. I want you to go where I am sending you and see if you like it there. If you do, I can nd you something to do but you cannot mess around. You have to be focused and competent that you can complete the task. “Be ambitious!” , but don’ t move so fast that your common sense is behind you. Satori A Unsent Letter to the Past＿Phillip Logan

ユキへ 　書く時間が十分にはありませんが、腹を割って話したいと思います。 あなたは幸せではありません。あなたがここでぐずぐずしているのはしばらく前から気づいていま した。 あなたは他人から求められたことをやっているのに、何の報いも得られてないようですね。 地球の裏側にも行ける場所はありますよ。私のためにしてくれていること に対して自信を持ってほしいのです。私はいつも一緒にいることはできないから、あなたには成功してほしいのです。 　わかるでしょう、私がいつもあなたのそばにいることができなかったし、あなた自身もそれが必要じゃなくなったことを知ったから。 彼らはあなたの助けになるけれど、 未熟なあなたの気をそらすことになるでしょう。私たちが経験している時代を見通して、そこから何かを作り出していかなくてはいけません。 わかるでしょう、これまで のやり方で「やっていく」ことはできないのですから。やるからにはすべてに意味を成さなければなりません。 さもないと、居場所がなくなってしまいます。 私はよい友達 でも先生でもありませんが、残酷な主人でもありません。そこをわかっていただきたいのです。私は今この時、単なる先導者にすぎません。私は、あなたが常に自信をもっ て努力できるようにしているのです。 　先日、古い友人と夕食を食べたのですが、彼女は、あなたがいつも煮詰まった様子で、遠い地平線の彼方に手を伸ばすかのように自分の将来について考えているという ことに気づいていました。私があなたを送っていく場所について、そこが気に入る場所なのかどうか確かめてほしいのです。 そうすれば、あなたが無駄に時間を過ごすこ となく、やるべきことを見つけてあげます。 するべきことを終えるには、集中力と能力が必要です。 「野心的であれ！」と言いたいけれど、でもあなたの常識を無視するほど、 焦って行動しないでくださいね。 サトリより（過去へ送る、届かない手紙 ＿ ロゲン）