#603 漫画を没収した男
「失礼します。」
ヤスハラは職員室のドアを開くと、マキノの元へと向かった。
「マキノ先生。」
「おお、ヤスハラ。」
マキノは見ていた日誌からゆっくりと視線を上げた。
「何しに来た?」
「今日、授業中に没収された漫画を返してもらいに来ました。」
「ああ、そのことか。いいか?何回も言ってるけどな、授業っていうのは漫画を読む時間じゃないんだよ。これ何回目だ?」
「3回目です。」
「何回も同じことで先生を怒らせるな。」
「すみません。」
「本当に反省してるのか?見えないよ、反省の色が。」
「反省してます。もう二度と、授業中に漫画は読みません。なので漫画返してください。」
「ダメだ。」
「なんでですか?」
「反省の色が見えないからだ。今日は一日しっかり反省して。しっかり反省の色が見えたら、明日の放課後に返してやる。」
「でも・・」
「でもじゃない。今日は返せない。明日の放課後だ。わかったな?」
「読んでます?」
「は?」
「もしかして僕の漫画読んでます?」
「・・・読んでないよ。」
「読んでますよね?前からちょっと気になってたんですよ。先生俺の漫画読んでるんじゃないかなーって。」
「読んでないって。」
「ホントですか?じゃあ返してくださいよ。」
「ダメだ。しっかり反省するまで返さない。」
「反省ってなんですか?してますよ。」
「いや、してない!3回も同じようなことするやつは反省なんかしてないよ!」
「本当はまだ先生が読み終わってないからじゃないんですか?」
「何言ってんだ!先生が生徒から没収した漫画を読んでるわけがないだろ!お前簡単に返したら、また授業中に漫画読むだろ!」
「いや、読まないですよ!」
「いや、読むよ!」
「読みませんって!」
「読むに決まってる!」
「読みません!授業中に漫画を読むことは二度としません!」
「いや、たまにだったらいいけど・・。」
「はい?」
「たまに読む分にはいいよ、別に・・。漫画読みたくなる気持ちもわかるし・・。ただ、読んでるの見つけたら没収させてもらう・・。」
「それってただ続き読みたいだけじゃないんですか?」
「何を言ってるんだ!」
「え、たまにだったら漫画読んでもいいんですか?」
「基本はダメだぞ?ダメだけど、こっちだって堪忍袋の緒があるからな!持ってあと3回だぞ!」
「結構ありますね!」
「だからってもう授業中に漫画読むなよ?」
「もしかしてあれですか?今没収してる漫画が全6巻だからその分の猶予ですか?」
「何言ってるんだ!とにかくもう下校の時間だから、早く帰りなさい!」
「いや、漫画返してくださいって!読み終わってないからってずるいですよ!」
「・・・何を言ってるんだ?早く帰りなさい!」
「読みたいなら自分で買って読んでくださいよ!」
「・・・何を言ってるんだ?早く帰りなさい!」
「古本屋とかに行けば安く売ってますから!」
「・・・何を言ってるんだ?早く帰りなさい!」
「そのとぼけ方ダサいですよ?先生!」
「・・・何を言ってるんだ?早く帰りなさい!」
「それしか言えなくなってるじゃないですか!漫画返してくださいよ!」
「・・・何を言ってるんだ?早く帰りなさい!」
「ジャックもうすぐ死にますよ!」
「何を言ってるんだ!!!!」
「ほらほらほら!!」
「な・・おま・・ジャック死ぬのか?」
「もう絶対読んでるじゃないですか!!」
「・・・何を言ってるんだ?早く帰りなさい!」
「もういいですって!先生、もういいんで!認めましょ?読んでますよね?」
「読んでるよ!!!!」
「ああ・・。」
「あの漫画すっげーおもしれえから!!!ハマっちゃってんだよ!!!もう今日なんか、授業そっちのけでどうやって漫画没収するかってことだけに集中してたわ!!!!」
「そういうのあんま良くないんじゃないですか、先生。」
「うるせえ!授業中に漫画読んでる子供に、そんなこと注意される筋合いないよ!」
「でも、生徒から没収した漫画読むってどうなんですか?自分で買ってくださいよ!」
「小遣い少ねえんだよ!!!」
「はい?」
「毎月1万5千円だぞ!?食費込みで!無理だろ、そんなん!共働きなんだぞ?これっておかしくないか?まだ中学生にはこの話わかんないか!?」
「ちょっとわかんなかったです・・。」
「とにかく漫画買ってる財布の余裕ないんだよ。だからすげえありがてえんだよ、お前の漫画。ほんとありがとな、いつも貸してくれて。」
「別に貸してはないですよ。」
「前さ、一回2組のサイトウのポケモン没収したことあったんだよ。反省の色が見えないって言って、1週間くらいやり込んでたらさ。さすがにバレたな。」
「当たり前でしょ!」
「なんすか、このポケモンみたいな!伝説捕まえてるじゃないですかみたいになって!すげー詰められたけど、次の席替えで一番前にするぞって言ったらすぐ黙ったわ!」
「最低だなこの人!」
「とにかく今後も漫画貸してください!」
「貸しません!!!」