#213 露骨すぎる漫画家
キクチが指定された部屋で待っていると、編集者のハヤシがやってきた。
「お待たせいたしました。」
「とんでもございません。お時間作っていただいてありがとうございます。漫画家志望のキクチです。」
キクチは丁寧に挨拶した後、持っていた茶封筒を手渡した。
「こちらが見ていただきたい原稿になります。デビューに向けてどんな些細なことでもアドバイスいただければありがたいです。よろしくお願いします。」
「ではお預かりいたします。」
ハヤシは茶封筒を優しく受け取った。
「今回キクチさんの方からお電話いただいた時に、ものすごい熱意が伝わってきまして。今日こうやって会えるのをこちらとしても非常に楽しみにしていました。」
「ありがとうございます。本当にデビューしたいです。」
「ではちょっと読ませていただきます。」
「お願いします。」
ハヤシは封筒から原稿を取り出し、真剣な眼差しで読み始めた。しかししばらく読み進めたところで、ハヤシは突然原稿を置いた。
「えっとー、ごめんなさい。ちょっといくつか確認させていただいてよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「えっと、まずこの作品は山賊のお話って言うことで合ってますかね?」
「そうですね。ある村の少年が、山賊キングを目指して仲間とともに成長していくっていう話ですね。」
「ですよね?ちなみに『マン・ビーズ』っていうこの作品のタイトルなんですけど。これはどういった意味が?」
「あ、えっと。冒頭に書いてあるように、かつてこの世に存在した”伝説の山賊”ゴルディン・メジャー。彼が処刑される前にどこかに隠した『男たちの宝石(マン・ビーズ)』を探すために、山賊たちが旅に出る話ということでマン・ビーズです。」
「なるほど。えっとー、まだ序盤少し読ませていただいた段階なんですけど。これワンピースですよね?」
「はい?」
「これほぼほぼワンピースだと思うんですけど。」
「ワンピース?」
「いや、あのー・・・え?これちょっとあまりにも似すぎてて。せめてパクるにしても、もうちょいね?なんというか・・・」
「いや、パクリっていうのはちょっと。全然そんなつもりは。」
「いやいやいや。設定とかがもう。あからさますぎて。ね?」
「設定?」
「ていうかせめてもうちょいマイナーな作品からバレないようにパクるならまだしも。これだけ露骨にワンピースいかれちゃうとね。なんていうか・・読んでるこっちが恥ずかしくなっちゃう。パクるならバレないようにやろう。」
「ちょっとごめんなさい、よくわからないですけど。この後の展開がすごく自信あって。読めばわかると思うんですけど。」
「いやもう。大丈夫ですこれは。」
「いや本当にお願いします。主人公が”デビルの野菜”っていうのを食べちゃって。」
「え?なになに!?」
「あ、デビルの野菜です。」
「もう悪魔の実じゃん!」
「悪魔の実?ちょっとよくわからないですけど。で、そのデビルの野菜の一種『ポリエステルトマト』を食べて、全身が伸縮する能力者になるんですよ。」
「え、なにこれそういうギャグ漫画?」
「ギャグ漫画じゃありませんよ!」
「ワンピースをオマージュしたギャグ漫画じゃないの?そうとしか考えられないんだけど!」
「いやこれはストレートな友情物語です!」
「じゃあ無理だよ!もうそういう漫画あるもん!ワンピースだもん!」
「ちょっと!最後まで読んでくださいよ!」
「いや大丈夫です!なんかすごい恥ずかしい!特に微妙にバレないように変えてるところとか!悪魔の実をデビルの野菜にしたり、ゴムをポリエステルにしたり!」
「ていうかごめんなさい。そのー・・ワンピース?・・・っていうんですか?その漫画がちょっと僕、イマイチよくわからなくて。たまたまかぶっちゃったのかも。」
「いやそういうのも無理あるって!ワンピースだよ?マイナーな作品ならまだしも!」
「ワンピー・・・ス?」
「やめろって!どっちにしろよくないよ?知った上でとぼけてたとしたら人としてダメだし、本当にワンピース知らないんだとしたら漫画家志望としてダメだし!」
「あの、キャラクターにもすごくこだわってて。」
「話聞けよ!」
「主人公がロッキーっていうんですけど。トレードマークがハンチングで。」
「恥ずい恥ずい!」
「ちなみに一人称がオイラで。育ての親の『鶴仙人』っていう人から剣術を教わるんですね。」
「え?」
「その結果『珠玉の剣術大会』っていう大会に出場するんですけど・・」
「待って待って!え、ドラゴンボールも!?さすがにやんちゃすぎるって!」
「・・・ドラゴン・・ボール?そういう漫画があるんですか?」
「もう帰れよ!」