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#573 響かせてほしい女

「風、気持ちいいね。」

サヤカはベンチに座って、伸びをしながら言った。

「そうだね。」

横に座っているヒロキは、少し硬い表情でうなずく。

「あ、あのさ・・。」

ヒロキはベンチから立ち上がった。

「俺、サヤカちゃんのことが好きです!」

「え?」

「サヤカちゃんのこと、幸せにします!だから・・付き合ってください!」

ヒロキは頭を下げた。

「ヒロキくん・・。」

サヤカは驚いた表情でヒロキを見た。

「その言葉、本気なの?」

「うん!本当にサヤカちゃんのことが好きです!」

「だとしたら、声ちっちゃくない?」

「え?」

「なんか、あんまり気持ち伝わってこなかった。」

「・・・ああ。」

「その気持ちが本気なら、もっと大きい声で言ってほしい。」

「え?・・・うん。」

ヒロキは戸惑いながら、息を大きく吸い込んだ。

「俺!!サヤカちゃんのことが好きです!!付き合ってください!!」

「そんなもんなの!?」

「えぇ!?」

「好きって気持ちが、心まで届いてないんだけど!皮膚を越えてきてない!」

「ああ・・。」

「もっと声出してよ!届けてよ!」

「え、なんでそんな声の大きさにこだわるの?」

「信用していいのかな?ってなっちゃうの!弱々しいから!もっと気持ち出してよ!」

「・・・俺はぁ!!!サヤカちゃんのことが好きです!!!!」

「もっと!!」

「俺は!!!!サヤカちゃんのことが好きです!!!!!」

「もっと腹から!!!」

「俺はあああああ!!!!サヤカちゃんのことがあああ!!!!好きでええええす!!!!!」

「もう一回!!!」

「これ部活!?なんなのこれ!」

「本気で私と付き合いたいんでしょ!?」

「もう今はわからなくなってるよ!!!!迷いが出てきてる!!!!」

「なんでよ!!!本気で好きって言ってくれたじゃん!!!」

「そうだけど!」

「私すごく嬉しかったんだよ!!!!」

「なんで!?」

「だってえええええ!!!!!!私もおおおおおお!!!!!!ヒロキくんのことがああああ!!!!!好きだからあああああああ!!!!!!!うおおおおおおおお!!!!!!」

「いや、俺のことめっちゃ好きじゃん!!!!」

「同じくらいの強さでえええ!!!!私のこと愛してよおおおお!!!!私はこんなに、ヒロキくんのこと好きなんだからっっっっっっっっっっっさあああああああああああ!!!!!!」

「うるせええええええ!!!!!!!」

二人が息を切らす音が、その場に響いた。

「ちょっと、俺から告白しておいてあれなんだけど。ちょっと、さっきのことは忘れてほしい・・。」

「・・・もっと大きい声で言ってよ。」

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