#299 早とちりしちゃった男
マキノが会社の屋上にいると、勢いよく扉が空いた。
「マキノ!待てよ!」
「オオツカ?」
オオツカは息を切らしながら必死の思いで叫んだ。
「お前の気持ちはわかるよ!でも早まるな!」
「え?」
「確かに会社をクビになったタイミングで、ミキにも振られたら死にたくもなる!でもお前が死んだら色んな人が悲しむんだぞ!もう一度考え直せ!」
「え、別に死ぬつもり無いんだけど。」
マキノは少し戸惑いながら喋った。
「俺ただ屋上にタバコ吸いに来ただけだから。別に自殺とかそんなことしないよ。」
その言葉を聞いたオオツカはホッとした表情を浮かべた。
「なんだよ。よかったー。びっくりさせるなよ。」
「いやびっくりしたのはこっちだよ。だってなに?俺会社クビになるの?」
「え?」
「なんかお前サラッととんでもない事実を発表してくれたけどさ。俺クビになるの?」
「あれ?まだ聞いてなかった?お前今月いっぱいでクビだよ。」
「マジで!?」
「てかさっき本部長と話してたよな?その話じゃなかったの?」
「違うよ。この後の予定聞かれてただけ。」
「うわ、まだだったのかよ。お前が本部長と話した後に、うつむきながら屋上向かっていったから俺てっきり自殺するんじゃないかって思ってさ。ミキにも振られたし。」
「てか俺ミキに振られたの?それも初耳なんだけど!」
「マジ?」
「そもそも俺振られてないし。」
「え、でも浮気がばれて・・」
「え、なに?ミキ浮気してんの?」
「あれ?知らなかった?副社長とミキちゃんができてる話。会社では有名な話だぜ?」
「知らないよ!おい、マジかよ!」
「で、もうすぐ結婚するらしいんだけどさ。」
「結婚!?ミキと副社長が!?」
「そのタイミングでミキちゃんがお前と浮気してるのに副社長が気がついて。」
「あ、俺が浮気相手側だったの?」
「それにキレた副社長が、お前のことクビにしたんだって。」
「マジかよ!かなりの大事件起きてるのになんで一個も俺の耳に入ってないの!どういうことなのこれ!」
「え、てか待って?じゃあもしかしてミキがアメリカに行くことも?」
「え、なに!?ミキはアメリカに行くの!?なんで!?」
「副社長と結婚するために。ほら、副社長って普段はアメリカに住んでるだろ?結婚してアメリカに行っちまうんだ!もうすぐ飛行機の時間だぞ!」
「マジ!?」
「早く追いかけろよ!早くしねえと、ミキのやつホントに行っちまうぞ!」
「いやいやいや!理解が追いつかないって!なに?ミキは副社長と結婚して・・アメリカで・・えぇ!?」
「これは俺の車のキーだ!車は下の駐車場に止まってる!どうせお前クビになるんだからさ!仕事のことは忘れて、今すぐ空港行けよ!」
「そうだ俺クビにもなるんだったね!もう色々起こりすぎて霞んじゃってるわ!ダメだもう、なんか目回ってきた。」
「おい、やめろ!早まるな!」
「別に自殺なんかしないよ!今は色々驚きすぎて、死にたいとかの感情は一切ない!」
そしてマキノはオオツカに尋ねた。
「てかなんなの?そもそもなんでお前は全部知ってるの?」
「そりゃあ知ってるに決まってるだろ!双子の妹のことなんだから!」
「え、お前ら双子だったの!?」
「あれ知らなかったっけ?」
「初耳だよ!このタイミングで新しい情報ぶっこんで来るなよ!」
マキノは思わず頭を抱えた。
「ちょっと待って?一回整理させて?俺は今何すればいいの?会社クビになるわけでしょ?で、彼女が他の男と結婚するためにアメリカ行っちゃうでしょ?とりあえず空港行くべきか。色々聞きたいし。よし、空港行くわ!車借りるな!」
「おう!あ、ちょっと待ってくれ!実はまだお前に言ってなかったことがあって!」
「え?なに?」
「実は・・俺の車・・・左ハンドルなんだ。」
「あー、弱いな。」